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2010.10.26
[インタビュー]
アジアの風 『虹』 シン・スウォン監督インタビュー(10/26)

シン・スウォン監督

韓国インディーズ作品『虹』のヒロインはもうすぐ40歳の、子持ちの主婦兼映画監督(しかもスッピン)。長編デビュー作のシナリオに悩んで悩んで、悩みまくった末にまた悩む。こんな話を笑えて泣けて元気が出てなおかつセンスの冴えた、四拍子揃った快作にしているのだから、監督のシン・スウォンは只者ではない。どんな烈女かと思いきや、はにかみながら質問に答える、落ち着いた小柄な女性だった。
©2010 TIFF


――主人公ジワンに、監督ご自身の姿はどれだけ反映されていますか。

私自身2人の子供を持つ主婦で、30代で教師の仕事をやめて2002年に韓国芸術綜合学校映像院に入学、卒業後はしばらく映画の製作会社にいました。実は、『虹』の前に音楽映画を準備していたことがあり、劇中のバンドの演奏ビデオはその時に取材したものです。このように私の経歴はジワンとよく似ていますが、『虹』のなかで実際の経験通りのシーンは全体の約4分の1で、後は映画のための創作です。ジワンも基本的には最初から考え出したキャラクターです。
ただ、長編を作る大変さをイヤというほど味わったのは、私もジワンと同じなんです。セリフのほとんどは、私のこの10年間の“日記”のようなものと言えます。

――英語題は劇中のキーワードでもある「Passerby♯3」(通行人その3)。映画のエキストラ=主役になれない人生というシニカルな意味が、後半はポジティヴに反転します。社会進出が進んだ<386世代>の女性へのエールを込めた映画と読めましたが。

確かに私も<386世代>と呼ばれる一人ですが、優先順位の一番は、私自身を慰めたい気持ちでした(笑)。でもそんな気持ちで映画を作れば自然と同世代の女性に共感してもらえ、今まさに家事と仕事の両立に苦労している多くの人たちへエールを送れるはずだとは思っていました。

――ヒット作と似た設定に書き直させるなど、ジワンをとことん振り回す女性プロデューサー。映画界の風刺コメディらしい憎まれ役ですが、彼女もまた働く女性のひとりとして、優しい視点で捉えています。

監督にとってプロデューサーはパートナーであると同時に、対立する相手でもあります。私にもプロデューサーに理解してもらえず、恨みを抱いた経験があります。『虹』のシナリオはそうした葛藤から自分を解き放して書こうと考えました。俯瞰で物事を見るように書いてみたかったんです。
商業映画の大きなシステムの中で働くプロデューサーは、どうしても憎まれ役にならざるを得ない状況に追い込まれがちです。『虹』の女性プロデューサーにだって自分の作りたい映画があったのに、いつしかシステムに巻き込まれてしまっている。この点はちゃんと描いておきたかった。監督とプロデューサーそれぞれの立場に悩みと苦労がある、ということですね。
『虹』が完成した時、業界人の機嫌を損ねるのではと心配する後輩がいたんですが(笑)、意外と好意的に見てくれるプロデューサーの方が多くてホッとしました。
©2010 TIFF


――前半、水溜りに浮かんだ油が虹に見えたことに啓示を受けるジアン。紆余曲折の後の終盤、空の虹を息子と一緒に見るシーンとのつながりが鮮やかです。

実はあのシーンはコンテにも書いていませんでした。ロケ中に、偶然に本物の虹が出たんですよ! しかもキャストの2人がいる時に。虹はすぐに消えてしまうから、大急ぎでカメラの前に立ってもらって……。その日は猛暑でスタッフ全員クタクタでしたが、うまく撮れた時はみんなで喜びを分かち合えました。

――ジワンが粘ってこだわるのはロックバンドの物語で、反抗的だった息子も感化されるように軽音楽部に入ります。監督は脚本、プロデューサーとともに音楽もクレジットされていますが、いわゆる<ロック少女>でしたか?

作曲と演奏は若いバンドで、正確には私のクレジットは選曲と音楽プロデュースです。
もともとはポップスが好きだったんですよ。それが年を重ねるとともにロック好きになって、今では来世はギタリストになるんじゃないかと思うぐらい(笑)。
中学校で教師をしていた時、とても聡明なのに家庭環境が原因で非行に走ってしまった生徒がいました。その彼がバンドを組み学園祭で演奏する姿を見て、ああ、この子にはうっ憤を爆発させるツールが必要だったんだと気付かされたんです。ロックのような音楽は、十代の子がフラストレーションを思い切りぶつけられる重要な手段だと思いますね。

――本作は今年すでに全州(チョンジュ)国際映画祭で韓国長編映画祭グランプリを獲得しています。次回作は?

脚本を出資会社で検討してもらっているところです。題材は、音楽映画(笑)。ギター工房で働く若者が主人公です。
メジャー映画会社の方からも「ジャンル映画に興味は?」と打診を受けたのですが、私には「ジャンル映画」って何のことかよく分からなくて(笑)。これからどんな形で映画に関わるにせよ、自分の見たい映画―等身大の人生をしっかり描いたもの―を作れることが最優先なのは変わらないと思います。

(聞き手:若木康輔)


『虹』
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