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2010.10.26
[イベントレポート]
アジアの風『虹』10/26(火) Q&A

シン・スウォン監督

10月26日(火)、アジアの風『虹』の上映後、シン・スウォン監督が登壇、Q&Aが行われました。
©2010 TIFF

シン・スウォン監督(以下 監督):皆さん、朝からお疲れのところ、来てくださいましてありがとうございます。

――監督の経験が作品に活かされている部分はありますか?

監督:ほとんど基本的なストーリーの部分は、私の経験が反映されているところがあるんですけれど、まぁドラマということもありますのでその他の部分は自分で肉付けしたところもあります。

――実際にこれは言われた言葉で、これは絶対使いたいと思った事だったりそういったエピソードはあるんですか?

監督:そうですね・・・実際に使ったセリフというのは息子として出てくる男の子が「僕はいま思春期だ!」と思春期というのは反抗が始まる時だと言わせる、あれは実際に自分の娘が言った言葉を使ったんですね。実は息子ではなく、私の言うことをなかなか聞かない中学生の娘なんですけれども、非常にとげとげしくそんな事を言ったので、それがあまりにも可笑しくて書きとめておきました。

Q:とても素敵な作品でした。どうして主人公をこれから映画を撮る前、映画を撮っている姿ではなくて映画を撮る前を物語にしたのでしょうか?

監督:これは非常に胸が痛い話なんですけれども、私自身は短編を撮っていたのですが長編は今回が初めてだったんですね。そういう事もありまして女性主人公というのはまさに映画をスタートする瞬間のそういう女性がいいのではないか?と、つまり自分の過去を振り返ってみようという気持ちになって主人公を設定しました。私は9年間教師をしていましたが辞表を出して映画を選択したという過去もありますので、そういった事を活かしました。

――どうしてあの方をヒロインにしたのか?教えていただけますか?

監督:彼女はパク・ヒョニョンという女優さんです。皆さんもご存知かもしれませんが、ホン・サンス監督の『江原道の力』という映画の中で助演として出演していました。その時は学生さんで女優ではなかったのですが、ホン・サンス監督が使いたいという事でその映画で起用したという事を聞きました。それ以来彼女は短編映画に何度か出たりしていまして、どちらかというと静かな役が多かったんですね。このシナリオを書いている時にどうしても彼女の顔が頭に浮かんで「彼女を起用したら面白いのではないかな?」という事を考えながらシナリオを書いていました。実際に彼女に会ってみたら、ちょっと想像していたキャラクターとは違っていました。非常にキラキラと明るく笑う非常に活気のある女性だったので自分が書いているキャラクターと合わないのではないか?とちょっと悩んだんですけど、顔立ちを見てみると、そばかすがあったり、くまがあったりとかそういう状況だったので、これならシナリオに合うだろうと思って悩む事をやめてすぐに彼女をキャスティングする事にしました。
©2010 TIFF

Q:主人公の目標として映画を挫折してしまったようにもとれるラストに思えるんですけれども、なぜそういうふうな映画の道をあきらめてしまっているような感じのラストにしてしまったのか?最後は映画製作に入って終わるのかなぁ?と思っていたのでちょっとそうなってしまったんですがどうなんでしょうか?

監督:実は同じような質問を何度か受けた事があるんですけれども、たしかにこの世の中には主人公の成功ストーリーが多いですね。でも私としては失敗談を描きたいと思いました。成功だけに価値があるとは思えなくて、失敗しても何らかの価値がある!何かが残る!のではないかと思いまして、今回の映画では失敗談を描くというふうに決めていたんですね。その象徴になるのが「虹」なんですけれども、最初の方で水溜りのなかに虹を主人公は見ますよね?ふつう虹というと空にあるものだ!!って思いがちなんですけど、虹というのはそういう水溜りのなかにもありえるんだ!!と言うことを語りたいと思いました。で、そういう意味もありまして、れっきとしたしっかりとした映画をきちんと作ってみたいという気持ちでした。最後はたしかに主人公が映画をあきらめて終わったというふうに受け止められるんですが、すこし私の意図とは違っていました。あの韓国語のタイトルは“レインボー”で英語のタイトルは“Passerby #3”まったく比重がないエキストラということで、通行人3というタイトルがついていて、実は韓国語のタイトルも“通行人3”にする予定だったんですが、やっぱり“レインボー”に変えました。

――制作する上で苦労した点は?

監督:この作品は私が制作にかかわっていたのであえて商業映画の会社の方たちに見せるということはほとんどありませんでした。以前は私も商業的な映画を作る製作会社にいましたのでだいたいどういう状況かというのはわかっていました。ですので初めから商業映画の関係の人達に見せるとかそういう事も考えませんでしたし、何が求められているのか、商業的な部分で今どんな事を皆さんが望んでいるのか、と言う事もあえて考えないようにしていました。つまりシナリオを書いている段階から、出資を待つために制作費を集めるためにその時間待って心理的な負担を感じて疲れてしまうということはしたくないと思って、少額でもいいので小さなお金で映画を撮ってみようと思いました。
さっき成功と失敗の話をしたんですけども映画も商業的な成功だけがすべてではないと思ったんですね。別のやり方で作った映画にも価値があるという風に信じていましたので、少ないお金でもなんとか映画を撮ろうという気持ちで今回は制作をしました。この映画が出来上がったあとに何人かのプロデューサーの方から「この映画だったら商業的にも当たる可能性があるんだからもうすこし有名な俳優を使ってもよかったのではないか?」ということを言われたんですね(笑)私自身はそういった明確な意図があったので決して後悔はしていませんでした。まわりのスタッフからもプロデューサー以外の方からも認知度のある俳優を起用したほうが?という意見も制作の段階からあったのですが私としてはやっぱり有名か無名かということを問わずにキャラクターにあった俳優さんを、そして演技がうまい俳優さんを、ということを考えてキャスティングしたので最初から商業的な映画を作る会社に行って断られるという事はなかったです。

――第11回全州国際映画祭で韓国長編映画部門のグランプリにあたるJJスター賞を受賞されましたが、いかがでしたか?

監督:賞をいただいた時なんですけど、賞をもらえるということはまったく期待していなかったんですね。映画祭の最後のクロージングの前にソウルに帰るつもりでいたら周りの人たちが帰るな!と言うんですね。「なぜですか?」と聞いたら、いや、とにかく居てくれ!というので留まったんですね。ホテルも1泊追加してくれまして、考えてみたら観客の反応は確かによかったから、もしかしたら観客賞なのかな?と思いました。ただもう誰も知らせてくれなかったんですね。果たしてその翌日にクロージングに臨んだんですけども、なかなか自分の名前が呼ばれなくて「変だな?変だな?」と思っていたらほんとに最後の最後に名前を呼ばれて本当に驚きました。そしてその賞をもらって家に帰ったら家族からすごく喜ばれたんですね。初めて親孝行したねっていわれまして家族みんながちょっと喜んでくれました。

――その“ちょっと”というのは(笑)ご家族の方は普段の監督の活動に対して、映画のように冷たいリアクションの時もあるのですか?

監督:あの、私は結婚してるんですけども姑がいまして「1本映画を撮ったんだから、もう映画を撮るのはやめなさい!」と言っております。実は賞を取った時の挨拶が「きっと姑も喜んで、“これからも映画を撮るように!”と言ってくれると思います」と挨拶で言ったのですね。それから少し時間が経ったわけなんですけども、もう1本でやめなさい!と言われています。

Q:素敵な映画でした。ありがとうございました!
この作品では監督さんの過去、自分の過去をテーマにするという非常に難しい繊細なテーマに挑戦されたわけですが、一番理想としていた主演女優のイメージというのはいかがだったんでしょうか?

監督:最初に彼女(パク・ヒョニョン)に会った時というのは印象が違ったわけですが、監督というのは私に限らずみんなそうだと思うんですが、初めて会う俳優さんというのはやっぱりどうしても緊張したりちょっと疑いの目でみたりしてしまう所があると思うんですね。なぜかというと、やはり自分の作品の運命というのは俳優さんにかかっているからです。私も彼女に会うときに緊張しながら、ちょっと疑いながら彼女を観察していたんですね。話ながらも途中で「彼女はどんな表情をするんだろう?」とか表情をみたりそんな風にしながら会ったんですね。さっき言ったように最初、彼女はとても静かな印象だと思って会った所、とてもワイルドな面もあってちょっとイメージとは違うけれども彼女を使うのは面白いかな?と思いました。映画の中では彼女はちょっと無表情な所がかなり多いんですよね。でもある時にはいきなり怒り出したりという演技も求められますから、最初にちょっと合わないと悩んでいたんですけれどもそれはちょっと無駄な考えかな?と悩む事も途中からやめました。もちろん撮影している時にはやはり私と彼女の間で考え方が合わない時もありましたし、お互いの中に葛藤が生まれた事もありました。例えば彼女が笑う演技をしていると私はちょっと良くないなと思って笑わないで!と言って泣いてしまうと、ちょっと泣かないで!と言ったりそういった演出をした事もありました。劇中、会議室でダメだしをされて泣くシーン(泣く演技)を彼女がしたんですね。あとで聞いたら「どうしても感情移入してしまって泣いてしまった」と彼女が言ってたんですね。それを編集室で見た時に、彼女が泣いている姿を果たして本編に入れるかどうかいろいろ考えた末に結局は泣いたというシーンはいれない事にしました。というのは入れてしまうと観客があまりにも映画に寄り添ってしまって距離が近くなってしまうと思ったのです。少し見ている人と劇中とで距離をおきたいなと思って、泣くシーンは今回使わないと決めたんですが、映画の中の人物というのは、(もちろん監督がキャラクターを事前に作るんですが)最終的に作るのは俳優だと思います。自分の考えているとおりにやってくれる俳優さんというのは最初の段階では100%できる人というのはいないと思いますし、それができるとしたら神しかいないと思うんですね。つまりその監督がキャラクターを設定したらその俳優さんが自分で考えて作ってくれるものだというふうに思っています。

――ありがとうございます。最後になりますが、なぜダメだしをされ、お姑さんには「もうやめなさい!」と言われ、その精神的なプレッシャーを受けながらもそれでもやっぱり映画を作りたい!と思う理由はなんでしょうか?

監督:とにかく映画を作りたい!という気持ちがあるからですね。やりたい事はやるべきだ!と思っています。私も女性で家庭の主婦ですから、もちろんやる事もたくさんあるんですね。今日の観客のみなさんの中にも女性がたくさん来てくださいましたけれども、ほんとうにたくさんやる事はあると思うんですけれど、人間だったら欲もありますし、何かをしたい!という意思は持っていると思うんですね。以前はちょっと映画監督というと「かっこいいかな」という気持ちもありまして自分をよく見せたいと思いました。監督だったらサングラスをかけてちょっと大声を張り上げてみて、レッドカーペットを歩きたいとそんな風にも思っていたんですが現実にぶちあたってみるとその思いはなくなりました。映画作りがどんなに大変かという事を知ったからです。ですからその後というのは自分に向き合って正直な気持ちで本当に自分のやりたい事をしよう!という考えに変わっていきました。韓国のロック歌手が歌った歌詞の中にも「君がほんとうに望むものは何か?」といった歌詞があったんですがそれをそのまま自分に問いかけながら、自分は何をしたいんだろうという事を思い、自分は映画を撮りたいんだ!という気持ちを持っています。

――ほんとうにその気持ちがあふれている作品だったと思うので来年以降も素晴らしい作品をぜひ東京国際映画祭のほうにもお越しください!

監督:ありがとうございました。


シン・スウォン監督インタビュー
コチラから

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