2010.10.30
[イベントレポート]
古谷徹さん、大友克洋さん、宇崎竜童さん、片渕須直監督らの裏話が満載!─10/30(土)映画人の視点「映画人、りんたろうの世界」
東京国際映画祭と文化庁映画週間の共催企画として開催される「映画人の視点」も今年で3回目。日本屈指の“映画人”が多彩なゲストを交えて自身のキャリアと映画術を振り返る「カンファレンス」と、3本の作品を上映する「スクリーニング」の2部構成。毎回熱い映画ファンの注目を集めるオールナイトイベントです。
女優の小泉今日子さん(23日)、美術監督の種田陽平さん(29日)に続いて、今年のトリとして登場したのはアニメーション監督のりんたろうさん。東映動画からキャリアをスタートさせ、手塚治虫の虫プロダクションで「鉄腕アトム」ほかで演出を担当。79年の『銀河鉄道999』で劇場長編デビュー、その後はマッドハウスを活動の中心として、『幻魔大戦』、『メトロポリス』、昨年は3DCGアニメ『よなよなペンギン』を発表するなど、アニメ創生期から現在に至るまで第一線で活躍するアニメ界の巨匠監督です。
当夜上映された作品は、角川映画のアニメーション作品第1弾の『幻魔大戦』、『カムイの剣』、手塚治虫原作の『メトロポリス』の3本。台風が関東に最接近するという悪天候にも関わらず、ゆかりのゲストとのトーク、そしていまやスクリーンで観ることが難しくなった3本とあって、会場には多くのファンが詰めかけました。
カンファレンスは、りんたろう監督の劇場長編デビュー作となった『銀河鉄道999』にまつわる話題からスタート。「劇場長編をやるとは思ってなかったんです。テレビの30分の起承転結のリズムが好きでしたし、そもそも劇場長編アニメがなかったですから」とりん監督。「それまでは子ども向けだったアニメを、初めて若者や大人をターゲットにした作品だったと思います」と述べ、同作の脚本を実写の脚本家・石森史郎さん(「斎藤耕一監督作『約束』の印象が強くあった」とのこと)に依頼した経緯を明かしました。そして「音楽はすぐにゴダイゴが浮かんできた。モチーフとして重要なのは音楽なんです。音楽が固まるとトップとラストシーンが浮かんできます」と、監督の重要なこだわりである“音楽”についても触れられました。
ここで最初のゲスト、『幻魔大戦』で主人公・東丈を演じた声優の古谷徹さんが登場。「アニメ一本でやっていくきっかけとなったのがこの作品なんです。それまでは顔出しする俳優としても活動していたんですが、『幻魔大戦』がやりたくて(声優の大手事務所)青二プロに移籍したんですから」とエピソードを披露しました。同作には、江守徹さん、穂積隆信さん、美輪明宏さん等々、芸達者な俳優たちが多数声で出演。「引っ張られちゃうのが恐くて必死でした」と当時を語る古谷さんでしたが、「そうだったの? 本当に(丈に)ぴったりと決まっていて、注文することがなかった」とりん監督は古谷さんを絶賛しました。
古谷さんに続いては、『メトロポリス』の脚本を担当、自身でも数々の映像作品を手掛けてきた大友克洋さんが登場。大友さんは『幻魔大戦』のキャラクターデザインも務めており、りん監督との出会いは同作が最初だったとのこと。りん監督は「吉祥寺の喫茶店で3時間かけて口説きました」と当時を振り返り、大友さんは「(出会いは)とにかく強烈でしたよ。なんせあれでアニメをはじめることになるんですから」と明かしました。
「(制作スタジオの)マッドハウスに行ったんですが、とにかく汚い。魔窟(笑)。でも漫画はほとんど1人で黙々とやってるわけですから、あの共同作業がとにかく新鮮でショックでした。こんなに楽しい場所があるのかと」と大友さん。『幻魔大戦』のキャラクターデザインで苦労した点や、「原画も書いてもらいましたもん。動かせる画は描けないだろうから、止め画でいいって」(りん監督)と、群衆シーンで当時のスタッフを模した画を大友さんが描いたというエピソードも明らかになりました。
「(虫プロ時代に)手塚作品を食い散らかしてしまったんじゃないかとずっと思っていて、キチンとけじめを付けたかったんです」というりん監督の想いから着手した『メトロポリス』は、大友さんが脚本を「1分で即決」だったとか。「ただ、原作は話として全然成立してなくて、正直『手塚さん、いい加減にしてくださいよ……』と思いましたよ」と大友さんは苦笑いでしたが、りん監督は「『(手塚キャラで有名な)ロックを(マルドゥーク党の若きリーダーとして)出したい』と大友さんに言われて、目からウロコでした。あのおかげで作品が締りましたよ。感謝しています」と語りました。
『カムイの剣』からは、音楽を担当した宇崎竜童さんがゲストで登場。りん監督のこだわりのひとつである“音楽”にフォーカスして話が進みました。竜童さんは、「この作品をきっかけに、(バンドの)竜童組が正式に結成されたんです。監督とお話して曲の構成や楽器の編成を考えていくうちに、ロック、ファンク、クラシック、邦楽と……ジャンルを超えていったんです」と語り、りん監督も「竜童さんと出会えて色々やれた経験は宝物です」と応えました。
「ケチャ(バリ島で行われる男声合唱)を使おうと思ったのは、忍者をリアリズムでじゃなくて、“操り人形”みたいに動かしたかったからなんです。ケチャのリズムが合ったんですね」とりん監督。そうした新しいことにチャレンジする姿勢が、「(作品を拝見して)ああいう風に切り拓いていっていいんだ、と思ったんです。僕よりも監督は年上だし、新しいジャンルに踏み込む勇気をもらいましたね」と竜童さんを刺激した様子。監督は「恐縮です」と言葉通りの反応を示しました。
最後のゲストは、同じマッドハウスに所属する『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直監督。「マッドハウスには15年くらい出入りしているんですが、(りん監督に)ちゃんと挨拶するのは初めてなんです」と笑いを誘いつつ、アニメーション映画の今後について語り合いました。
片渕監督が「(以前に比べると)色んなことができるようになったと思います。『メトロポリス』もそうなんですが、作家性のある人が作りたいようにやれる環境がこの10年でかなり来ています。ただ、そういったことを広く伝える部分のバランスが取れていない気がします。もっと一般の人に伝えていけるといいんですけど」と現状を語ると、りん監督も「まったく同感」と返答。「日本のアニメは、手塚さんのテレビアニメで市民権を得て、70年代後半~80年代でビジネスとしての頂点を迎えたと思うんですね。海外でも人気が出て、作品が高度に緻密にもなった。でも、不景気の影響もあって、閉塞感もあるんでしょうね。バランスが取れないままきている気がします」と問題点を述べました。
司会者が急激な普及を見せる3Dについて話を向けると、「日本のアニメは手書きの良さで来ていますから、(CGで制作されるハリウッド製のアニメと比べて)3Dが遅れてしまっているのは当たり前なんです」とその理由を説明。「でもそれが日本のアニメの良さでもあります。フランスとの交流もありますし(『よなよなペンギン』はフランスのスタジオが共同制作)、面白さも半分、大変さも半分、どうなっていくかはよく分かりませんが、期待感はありますね」と意欲を見せ、お宝映像ととっておきのエピソードでファンを盛り上げたカンファレンスを締めくくりました。
女優の小泉今日子さん(23日)、美術監督の種田陽平さん(29日)に続いて、今年のトリとして登場したのはアニメーション監督のりんたろうさん。東映動画からキャリアをスタートさせ、手塚治虫の虫プロダクションで「鉄腕アトム」ほかで演出を担当。79年の『銀河鉄道999』で劇場長編デビュー、その後はマッドハウスを活動の中心として、『幻魔大戦』、『メトロポリス』、昨年は3DCGアニメ『よなよなペンギン』を発表するなど、アニメ創生期から現在に至るまで第一線で活躍するアニメ界の巨匠監督です。
当夜上映された作品は、角川映画のアニメーション作品第1弾の『幻魔大戦』、『カムイの剣』、手塚治虫原作の『メトロポリス』の3本。台風が関東に最接近するという悪天候にも関わらず、ゆかりのゲストとのトーク、そしていまやスクリーンで観ることが難しくなった3本とあって、会場には多くのファンが詰めかけました。
©2010 TIFF
カンファレンスは、りんたろう監督の劇場長編デビュー作となった『銀河鉄道999』にまつわる話題からスタート。「劇場長編をやるとは思ってなかったんです。テレビの30分の起承転結のリズムが好きでしたし、そもそも劇場長編アニメがなかったですから」とりん監督。「それまでは子ども向けだったアニメを、初めて若者や大人をターゲットにした作品だったと思います」と述べ、同作の脚本を実写の脚本家・石森史郎さん(「斎藤耕一監督作『約束』の印象が強くあった」とのこと)に依頼した経緯を明かしました。そして「音楽はすぐにゴダイゴが浮かんできた。モチーフとして重要なのは音楽なんです。音楽が固まるとトップとラストシーンが浮かんできます」と、監督の重要なこだわりである“音楽”についても触れられました。
ここで最初のゲスト、『幻魔大戦』で主人公・東丈を演じた声優の古谷徹さんが登場。「アニメ一本でやっていくきっかけとなったのがこの作品なんです。それまでは顔出しする俳優としても活動していたんですが、『幻魔大戦』がやりたくて(声優の大手事務所)青二プロに移籍したんですから」とエピソードを披露しました。同作には、江守徹さん、穂積隆信さん、美輪明宏さん等々、芸達者な俳優たちが多数声で出演。「引っ張られちゃうのが恐くて必死でした」と当時を語る古谷さんでしたが、「そうだったの? 本当に(丈に)ぴったりと決まっていて、注文することがなかった」とりん監督は古谷さんを絶賛しました。
©2010 TIFF
古谷さんに続いては、『メトロポリス』の脚本を担当、自身でも数々の映像作品を手掛けてきた大友克洋さんが登場。大友さんは『幻魔大戦』のキャラクターデザインも務めており、りん監督との出会いは同作が最初だったとのこと。りん監督は「吉祥寺の喫茶店で3時間かけて口説きました」と当時を振り返り、大友さんは「(出会いは)とにかく強烈でしたよ。なんせあれでアニメをはじめることになるんですから」と明かしました。
「(制作スタジオの)マッドハウスに行ったんですが、とにかく汚い。魔窟(笑)。でも漫画はほとんど1人で黙々とやってるわけですから、あの共同作業がとにかく新鮮でショックでした。こんなに楽しい場所があるのかと」と大友さん。『幻魔大戦』のキャラクターデザインで苦労した点や、「原画も書いてもらいましたもん。動かせる画は描けないだろうから、止め画でいいって」(りん監督)と、群衆シーンで当時のスタッフを模した画を大友さんが描いたというエピソードも明らかになりました。
「(虫プロ時代に)手塚作品を食い散らかしてしまったんじゃないかとずっと思っていて、キチンとけじめを付けたかったんです」というりん監督の想いから着手した『メトロポリス』は、大友さんが脚本を「1分で即決」だったとか。「ただ、原作は話として全然成立してなくて、正直『手塚さん、いい加減にしてくださいよ……』と思いましたよ」と大友さんは苦笑いでしたが、りん監督は「『(手塚キャラで有名な)ロックを(マルドゥーク党の若きリーダーとして)出したい』と大友さんに言われて、目からウロコでした。あのおかげで作品が締りましたよ。感謝しています」と語りました。
©2010 TIFF
『カムイの剣』からは、音楽を担当した宇崎竜童さんがゲストで登場。りん監督のこだわりのひとつである“音楽”にフォーカスして話が進みました。竜童さんは、「この作品をきっかけに、(バンドの)竜童組が正式に結成されたんです。監督とお話して曲の構成や楽器の編成を考えていくうちに、ロック、ファンク、クラシック、邦楽と……ジャンルを超えていったんです」と語り、りん監督も「竜童さんと出会えて色々やれた経験は宝物です」と応えました。
「ケチャ(バリ島で行われる男声合唱)を使おうと思ったのは、忍者をリアリズムでじゃなくて、“操り人形”みたいに動かしたかったからなんです。ケチャのリズムが合ったんですね」とりん監督。そうした新しいことにチャレンジする姿勢が、「(作品を拝見して)ああいう風に切り拓いていっていいんだ、と思ったんです。僕よりも監督は年上だし、新しいジャンルに踏み込む勇気をもらいましたね」と竜童さんを刺激した様子。監督は「恐縮です」と言葉通りの反応を示しました。
©2010 TIFF
最後のゲストは、同じマッドハウスに所属する『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直監督。「マッドハウスには15年くらい出入りしているんですが、(りん監督に)ちゃんと挨拶するのは初めてなんです」と笑いを誘いつつ、アニメーション映画の今後について語り合いました。
片渕監督が「(以前に比べると)色んなことができるようになったと思います。『メトロポリス』もそうなんですが、作家性のある人が作りたいようにやれる環境がこの10年でかなり来ています。ただ、そういったことを広く伝える部分のバランスが取れていない気がします。もっと一般の人に伝えていけるといいんですけど」と現状を語ると、りん監督も「まったく同感」と返答。「日本のアニメは、手塚さんのテレビアニメで市民権を得て、70年代後半~80年代でビジネスとしての頂点を迎えたと思うんですね。海外でも人気が出て、作品が高度に緻密にもなった。でも、不景気の影響もあって、閉塞感もあるんでしょうね。バランスが取れないままきている気がします」と問題点を述べました。
©2010 TIFF
司会者が急激な普及を見せる3Dについて話を向けると、「日本のアニメは手書きの良さで来ていますから、(CGで制作されるハリウッド製のアニメと比べて)3Dが遅れてしまっているのは当たり前なんです」とその理由を説明。「でもそれが日本のアニメの良さでもあります。フランスとの交流もありますし(『よなよなペンギン』はフランスのスタジオが共同制作)、面白さも半分、大変さも半分、どうなっていくかはよく分かりませんが、期待感はありますね」と意欲を見せ、お宝映像ととっておきのエピソードでファンを盛り上げたカンファレンスを締めくくりました。
©2010 TIFF