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2010.10.24
[インタビュー]
アジアの風『ドッグ・スウェット』ホセイン・ケシャワルズ監督インタビュー(10/24)

ホセイン・ケシャワルズ監督

アッバス・キアロスタミ、マジッド・マジディら世界的な名匠による叙情豊かな作品イメージが定着しているイラン映画に、新たな息吹が芽生えた。その担い手が、32歳の俊英ホセイン・ケシャワルズ監督。脚本(共同)、プロデュース、編集も兼ねた初の長編『ドッグ・スウェット』が<アジアの風部門>で上映された。
首都テヘランで、さまざまな苦悩、葛藤を抱えて生きる6人の男女の“今”を写実的に切り取った野心作だ。この作品が縁で、監督は共同脚本、プロデュースのマルヤム・アザディと結婚。そんな記念碑的な作品に懸けた思いはもちろん、祖国の映画界に対する期待、将来の構想などを真摯に語ってくれた。

©2010 TIFF

――イラン映画が固定されたイメージで見られていることは自覚されていて、それを払拭したいという思いが、『ドッグ・スウェット』を製作するきっかけだとか。

「舞台が砂漠だったり、宗教的であるとか、イラン映画にはネガティブなイメージが多い。けれども、実はすごくいろんな人がいて、そのほとんどは都会に住んでいます。人口の3分の2が30歳以下だから、元気はつらつな部分がたくさんあります。そう考えたときに、本当にエネルギッシュでいろんなことが起きているという現実を表現し、紹介したかったんです」

――その気持ちを具現化するために、アザディさんと脚本作業を進めていった…。

「そう、ケンカしながら(笑)。書きたいことは湧き上がるようにあったし、本当にいろんなエピソードがあって、絞るのに苦労したくらいです。その中から若い人に焦点を当て、7日くらいで書き上げた。そこから2人でいろいろな議論をして、6、7カ月かけて練り上げていったんです」
©2010 TIFF

――『ドッグ・スウェット』はイランの現実を直視しているため、イスラム原理主義への批判など際どい表現もあると思います。そのため、ゲリラ撮影など製作にはかなりの制約があったのではないでしょうか?

「どうやって撮影したかは詳しくは話せないけれど、撮れるときに小刻みに撮ったものをつないでいる感じです。だから、ほとんどの予算は編集でかかってしまった。もともと黒かった僕の髪は、白髪が出来てしまった(笑)。そのくらい苦労したんです」

――その苦労は、6人それぞれが生きるうえで見せる閉塞感や焦燥感が、リアリティーをもって伝わる映像になっています。しかも、群像劇でありがちな、最終的にすべてがひとつに収れんするという、お決まりの構成にしていないところが新鮮だと思います。

「タイトルは、最も出来のいい密造酒という意味で、表からは見えないけれども、皆がそれぞれにいろいろな思いを抱き、理想を持っているということを描いています。全員が何かを秘めているという共通点があるから、それぞれの人生が重なる部分もありますが、大団円というのは嫌だったんです」

――同じ目標に向かって突き進んだ2人は、昨年、結婚したんですよね?

「(イランには)人を知るために一番良い方法は、一緒に旅をすることという言い方があります。だけど、一番いいのは一緒に映画をつくることだと思う。いいところも悪いところも分かりますからね」

――この記念的デビュー作『ドッグ・スウェット』は、東京国際映画祭でアジアン・プレミアとして上映されました。

「本当に名誉なことだと思います。日本の文化には以前から興味を持っていて、特に小津安二郎監督の『東京物語』が大好きです。この国にやっと来られたという感じ。家族の絆、高齢者への敬意、伝統文化など、日本とイランは似ているところがすごくあることに、我々は気づくと思います」

――現在は米国を拠点にしていますが、キアロスタミ監督やマジディ監督ら先達への敬意を払いつつ、故郷・イランでの映画製作も考えていらっしゃる?

「もちろん、巨匠たちをリスペクトしています。でも今は、若い人たちが自分を投影でき、共感できるような人々を描く映画を作る、新しい世代の監督が確実に育っています。自分も含め、そういう人たちに頑張ってほしいと思います。イランの女性とも結婚したわけだしね(笑)。イランには本当に素晴らしいエネルギーがあるし、まだまだ描きたいものがあるんです」
©2010 TIFF

将来的には、アザディが監督をする予定もあり、その際はケシャワルズ監督がプロデュースするという。まさに夫唱婦随の映画人生。東京国際映画祭への参加を、さらなる飛躍へのステップにしてほしい。

(聞き手:鈴木元)


『ドッグ・スウェット』
©Deluxe Art Films
→作品詳細



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