2010.10.24
[イベントレポート]
「世界に持っていける作品」と製作陣が太鼓判 - 10/24(日)『歓待』:記者会見
日本映画の現在と未来を伝える注目作をピックアップして送る「日本映画・ある視点」。今回も、数々の気鋭監督による話題作の上映が行われています。
24日は、深田晃司監督による『歓待』がワールド・プレミア上映。東京下町の印刷所を舞台に、流れ者の来訪によって人間関係が変化していく平凡な家族の姿を描いた同作は、劇団青年団演出部に所属する深田監督が、前作『東京人間喜劇』に続いて、青年団に所属する俳優とチームを組んで撮り上げた作品です。
上映に先がけての記者会見では、深田監督に加えて、主演とプロデューサーを務めた杉野希妃さん、出演者の山内健司さん、古舘寛治さん、ブライアリー・ロングさんが登壇し、同作が製作された経緯や作品の魅力について語りました。
深田晃司監督(以下、監督):本日は映画祭が始まって二日目です。いろんな映画を上映していてお忙しい時にお越しいただき、ありがとうございます。
杉野希妃さん:この作品は今年の七月後半に撮影があったんですが、撮影が終わって3か月もしないうちにこのような素晴らしい国際映画祭に上映させていただき、本当に光栄に思っています。最近の日本映画はだんだんドメスティックな方向に行っているのではないかと思いますが、この映画は自信を持って世界に発信できる作品になったと思っています。
山内健司さん:この場にいられて本当に光栄です。とてもうれしく思います。
古舘寛治さん:とてもいい作品になっていると思いますので、ぜひ作品を見ていただきたいと思います。
ブライアリー・ロングさん:とても素敵な作品となりましたので、ぜひ楽しんでください。
Q:前作『東京人間喜劇』もそうですが、出演者の多くが劇団青年団という演劇の俳優が出演されています。そのあたりの経緯なども含めて、この作品についてお話いただけますか。
監督:この作品は、杉野希妃さんと子役のオノエリコちゃんと、最後の方でたくさん出てくる外国の方以外は、平田オリザさんが主宰する劇団青年団の俳優さんに出演していただいています。私自身も今、劇団青年団の演出部として参加しています。演出部はそれぞれが劇団に企画を出して、劇団の俳優を使って演劇を作るという活動をしていますが、そのなかで唯一、僕は映画を作っています。今回の作品は、一年ほど前に脚本ができたのですが、映画を作るとなると劇団青年団だけでは難しいので、プロデューサーの杉野さんや和エンタテインメントさんにご協力いただいて、プロジェクトを多少ふくらませて撮影しました。下町の印刷所が舞台で、ロケ地はすべて墨田区です。そこで実際に運営されている印刷所に全面的にご協力をいただきました。平凡な下町の夫婦のもとに加川という男がやってくることによって、夫婦の隠された関係性がどんどん露わになっていき、それぞれが自分のことを見つめ直していく、そのすえに自分はどうなっていくんだろうということを描きたいと思いました。一方で僕は、日本社会の中でコミュニティになじめない人たちへのどことない排他的な空気に対して強い違和感を感じていて、それは映画の明確なテーマではないんですが、そういったことも脚本の中に取り入れたので、少し不思議な作品になったかと思います。墨田区のロケーションの良さと、スカイツリーが立つことで外国人の観光客が増えているというような流れも、そこにある現実として映画の中に盛り込めていけたらいいなと思いました。
Q:杉野さんはプロデューサーと主演女優という、ふたつの役割を担われていますが、現場から現在に至るまでをどのようにお感じですか。
杉野さん:本当に大変でした(笑)。撮影の直前まで、本当に撮影できるのかわからないほど、大変な現場でした。私は今まで女優としてしか作品に参加したことがなかったので、プロデューサーとして何から何まで責任を持ってやらなければいけないということが、こんなに大変なことなのかと痛感しました。深田監督とは、一年以上前の企画の段階から一緒に準備をさせてもらったんですけど、こうやって信念を持って作品を作ることはどれだけ意義があることなのかと痛感しましたし、そういう作品を世界に発信していきたいと思っています。8日間で撮影したんですが、タイトなスケジュールで本当に大変な中、青年団の皆さんに参加していただいて、皆さん人間的に素晴らしい方々で、腹を割って労りあって、ぶつかり合って撮影することができました。本当に理想的な現場で、女優として、プロデューサーとしてだけでなく、人としていろいろ学ぶことがあった現場だったと、改めて思っています。
Q:山内さんは、劇団青年団の俳優として演劇では長いキャリアをお持ちですが、舞台と映画の違いをどのようにお感じですか。
山内さん:最近フランスで演劇の公演をする機会が多いんですが、海外で演劇をやると言葉が大変なんです。でもフランスで夜中にテレビをつけると、日本映画もたくさん紹介している。そういうふうに、国境をパッと越えられるのは最大の魅力だと思いますし、同時に、一番最初に目に触れるのが俳優なので、本当に責任を感じます。舞台と映画の違いでいうと、やっぱり現場はあんまり時間がないですね。その場で演技の動線を決めていって、本当にどうしたらいいんだろうと思う時はいっぱいありました。でも映画の魅力のひとつは、セットではなくロケ、今回は本当の印刷所で撮影して、そこで目に見えるひとつひとつの物に時間が宿っていて、その豊かさがすごく新鮮でした。画面に映った時にそこに何か宿っている。外国の方の表情にも、ものすごい情報量があって、今の日本の何かが映っている気がします。
Q:古舘さんは加川花太郎という、大変印象的な役を演じられましたけれども、いかがでしたか。
古舘さん:僕はちょっと極端なキャラクターを演じることが多いので、今回特別に注意したことはないと思いますが、撮影が8日間というとても短い期間で、十分な準備ができないなかでやっていかなきゃいけない環境だったと思います。でも不思議なもので、面白いものができたと思っています。あの環境でこういう作品ができるというのは、どういうことなんだろうと思いますね。それは皆さんも作品をご覧になって、確認していただければと思います。
Q:ブライアリー・ロングさんは今年七月に来日されてすぐこの現場に入られましたが、いきなり出会った日本映画の現場はいかがでしたか。
ブライアリー・ロングさん:素晴らしい役者と一緒にこの映画に参加できて、本当にいろいろなことを学びました。とても楽しい経験でした。深田監督がこの映画を上手に撮って、みんなの演技をきれいに写してくれて、とても感動しています。
Q:印刷所を舞台にするという案は、どこからきたのでしょうか。
監督:この作品は元々「輪転」というタイトルでした。僕は輪転機が大好きで、どこか映画的だと思っていました。だから輪転機を撮りたいということから印刷所の設定が決まったんです。そして印刷所というのは、下町に多い職場で、パソコンやプリンターが家庭でも普及して、いろんな苦労を抱えている。そういったところから物語を広げようと思いました。
Q:小さな家庭の中でドラマが展開する映画は日本映画が得意とする伝統的なジャンルですが、参考にした作品があれば教えてください。
監督:僕は成瀬巳喜男監督が大好きで、下町の日本家屋をどう撮るかと考えた時に、必然と成瀬監督だったらどう撮るかと常に意識していました。主人公の名前が幹夫というのも、安直ですが成瀬巳喜男監督へのリスペクトです。成瀬監督の『流れる』という作品が大好きで何度も見直しているんですけど、日本家屋の一階と二階の人の行き来、その行き交いというのはコミュニケーションということだと思うんですが、そこで俳優が過剰に説明しなくても何か感情が伝わってくる、そういったものを描きたいと思っています。
「完成した映画は観客に育てていってもらうもの」とは深田監督の弁。今後の上映は26日(火)20:00~の予定。ぜひ皆さんもその目で作品のご確認を。
『歓待』
24日は、深田晃司監督による『歓待』がワールド・プレミア上映。東京下町の印刷所を舞台に、流れ者の来訪によって人間関係が変化していく平凡な家族の姿を描いた同作は、劇団青年団演出部に所属する深田監督が、前作『東京人間喜劇』に続いて、青年団に所属する俳優とチームを組んで撮り上げた作品です。
上映に先がけての記者会見では、深田監督に加えて、主演とプロデューサーを務めた杉野希妃さん、出演者の山内健司さん、古舘寛治さん、ブライアリー・ロングさんが登壇し、同作が製作された経緯や作品の魅力について語りました。
左からブライアリー・ロングさん、杉野希妃さん、深田晃司監督、山内健司さん、古舘寛治さん
©2010 TIFF
©2010 TIFF
深田晃司監督(以下、監督):本日は映画祭が始まって二日目です。いろんな映画を上映していてお忙しい時にお越しいただき、ありがとうございます。
杉野希妃さん:この作品は今年の七月後半に撮影があったんですが、撮影が終わって3か月もしないうちにこのような素晴らしい国際映画祭に上映させていただき、本当に光栄に思っています。最近の日本映画はだんだんドメスティックな方向に行っているのではないかと思いますが、この映画は自信を持って世界に発信できる作品になったと思っています。
山内健司さん:この場にいられて本当に光栄です。とてもうれしく思います。
古舘寛治さん:とてもいい作品になっていると思いますので、ぜひ作品を見ていただきたいと思います。
ブライアリー・ロングさん:とても素敵な作品となりましたので、ぜひ楽しんでください。
Q:前作『東京人間喜劇』もそうですが、出演者の多くが劇団青年団という演劇の俳優が出演されています。そのあたりの経緯なども含めて、この作品についてお話いただけますか。
監督:この作品は、杉野希妃さんと子役のオノエリコちゃんと、最後の方でたくさん出てくる外国の方以外は、平田オリザさんが主宰する劇団青年団の俳優さんに出演していただいています。私自身も今、劇団青年団の演出部として参加しています。演出部はそれぞれが劇団に企画を出して、劇団の俳優を使って演劇を作るという活動をしていますが、そのなかで唯一、僕は映画を作っています。今回の作品は、一年ほど前に脚本ができたのですが、映画を作るとなると劇団青年団だけでは難しいので、プロデューサーの杉野さんや和エンタテインメントさんにご協力いただいて、プロジェクトを多少ふくらませて撮影しました。下町の印刷所が舞台で、ロケ地はすべて墨田区です。そこで実際に運営されている印刷所に全面的にご協力をいただきました。平凡な下町の夫婦のもとに加川という男がやってくることによって、夫婦の隠された関係性がどんどん露わになっていき、それぞれが自分のことを見つめ直していく、そのすえに自分はどうなっていくんだろうということを描きたいと思いました。一方で僕は、日本社会の中でコミュニティになじめない人たちへのどことない排他的な空気に対して強い違和感を感じていて、それは映画の明確なテーマではないんですが、そういったことも脚本の中に取り入れたので、少し不思議な作品になったかと思います。墨田区のロケーションの良さと、スカイツリーが立つことで外国人の観光客が増えているというような流れも、そこにある現実として映画の中に盛り込めていけたらいいなと思いました。
Q:杉野さんはプロデューサーと主演女優という、ふたつの役割を担われていますが、現場から現在に至るまでをどのようにお感じですか。
杉野さん:本当に大変でした(笑)。撮影の直前まで、本当に撮影できるのかわからないほど、大変な現場でした。私は今まで女優としてしか作品に参加したことがなかったので、プロデューサーとして何から何まで責任を持ってやらなければいけないということが、こんなに大変なことなのかと痛感しました。深田監督とは、一年以上前の企画の段階から一緒に準備をさせてもらったんですけど、こうやって信念を持って作品を作ることはどれだけ意義があることなのかと痛感しましたし、そういう作品を世界に発信していきたいと思っています。8日間で撮影したんですが、タイトなスケジュールで本当に大変な中、青年団の皆さんに参加していただいて、皆さん人間的に素晴らしい方々で、腹を割って労りあって、ぶつかり合って撮影することができました。本当に理想的な現場で、女優として、プロデューサーとしてだけでなく、人としていろいろ学ぶことがあった現場だったと、改めて思っています。
Q:山内さんは、劇団青年団の俳優として演劇では長いキャリアをお持ちですが、舞台と映画の違いをどのようにお感じですか。
山内さん:最近フランスで演劇の公演をする機会が多いんですが、海外で演劇をやると言葉が大変なんです。でもフランスで夜中にテレビをつけると、日本映画もたくさん紹介している。そういうふうに、国境をパッと越えられるのは最大の魅力だと思いますし、同時に、一番最初に目に触れるのが俳優なので、本当に責任を感じます。舞台と映画の違いでいうと、やっぱり現場はあんまり時間がないですね。その場で演技の動線を決めていって、本当にどうしたらいいんだろうと思う時はいっぱいありました。でも映画の魅力のひとつは、セットではなくロケ、今回は本当の印刷所で撮影して、そこで目に見えるひとつひとつの物に時間が宿っていて、その豊かさがすごく新鮮でした。画面に映った時にそこに何か宿っている。外国の方の表情にも、ものすごい情報量があって、今の日本の何かが映っている気がします。
Q:古舘さんは加川花太郎という、大変印象的な役を演じられましたけれども、いかがでしたか。
古舘さん:僕はちょっと極端なキャラクターを演じることが多いので、今回特別に注意したことはないと思いますが、撮影が8日間というとても短い期間で、十分な準備ができないなかでやっていかなきゃいけない環境だったと思います。でも不思議なもので、面白いものができたと思っています。あの環境でこういう作品ができるというのは、どういうことなんだろうと思いますね。それは皆さんも作品をご覧になって、確認していただければと思います。
Q:ブライアリー・ロングさんは今年七月に来日されてすぐこの現場に入られましたが、いきなり出会った日本映画の現場はいかがでしたか。
ブライアリー・ロングさん:素晴らしい役者と一緒にこの映画に参加できて、本当にいろいろなことを学びました。とても楽しい経験でした。深田監督がこの映画を上手に撮って、みんなの演技をきれいに写してくれて、とても感動しています。
Q:印刷所を舞台にするという案は、どこからきたのでしょうか。
監督:この作品は元々「輪転」というタイトルでした。僕は輪転機が大好きで、どこか映画的だと思っていました。だから輪転機を撮りたいということから印刷所の設定が決まったんです。そして印刷所というのは、下町に多い職場で、パソコンやプリンターが家庭でも普及して、いろんな苦労を抱えている。そういったところから物語を広げようと思いました。
Q:小さな家庭の中でドラマが展開する映画は日本映画が得意とする伝統的なジャンルですが、参考にした作品があれば教えてください。
監督:僕は成瀬巳喜男監督が大好きで、下町の日本家屋をどう撮るかと考えた時に、必然と成瀬監督だったらどう撮るかと常に意識していました。主人公の名前が幹夫というのも、安直ですが成瀬巳喜男監督へのリスペクトです。成瀬監督の『流れる』という作品が大好きで何度も見直しているんですけど、日本家屋の一階と二階の人の行き来、その行き交いというのはコミュニケーションということだと思うんですが、そこで俳優が過剰に説明しなくても何か感情が伝わってくる、そういったものを描きたいと思っています。
「完成した映画は観客に育てていってもらうもの」とは深田監督の弁。今後の上映は26日(火)20:00~の予定。ぜひ皆さんもその目で作品のご確認を。
『歓待』
©歓待製作委員会
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