Home > ニュース > コンペティション 『小学校!』 フランシスコ・アルフォンシン(脚本・主演)、ダン・ウネケン(助監督)インタビュー(10/25)
ニュース一覧へ 前のページへ戻る previous next
2010.10.25
[インタビュー]
コンペティション 『小学校!』 フランシスコ・アルフォンシン(脚本・主演)、ダン・ウネケン(助監督)インタビュー(10/25)

フランシスコ・アルフォンシン(脚本・主演)、ダン・ウネケン(助監督)

『小学校!』はイバン・ノエル監督(スペイン)が自らの教師経験をもとに、教え子(7〜8歳児)との授業風景を再現してみせたセミ・ドキュメンタリー風の作品だ。子どもの天真爛漫な姿を活写しながらも、教師間の微妙な関係をそつなく描き、そこにシュールな味付けを施すなど、小品ながらも意欲に満ちているのが好ましい。教職の方にぜひお薦めしたい必見作でもある。残念ながら今回監督は来日できなかったが、盟友であるスタッフとキャストが映画の魅力を語ってくれた。
©2010 TIFF

――子どもたちの姿がいきいきと撮られていることに、何よりも驚嘆しました。またサイドストーリーとなる教師間の人間関係もなかなか考えさせるものが多くて、思わず引き込まれました。

フランシスコ・アルフォンシン(以下 アルフォンシン):監督のイバン・ノエルが1年間、小学校で美術を教えたことがこの作品を撮るきっかけになりました。出演している児童はその時の生徒たちです。子どもたちがいかに創造力豊かで誠実で正直か。その姿をありのまま映画にしたいと思い、脚本をつくる以前の段階で、実際に30〜40分間フィルムを回しながら授業を行い、その表情をカメラに収めていきました。もっとも、ある程度は物語がないと映画にならないので、主人公の美術教師、国語教師、算数教師の3人には性格付けをして撮影に臨みましたが、これは額縁みたいなものであり、真の主役はあくまでも子どもたちです。
©2010 TIFF

――多動性障害(ADHD)の子どもがはしゃぎまわる場面は、まるでドキュメンタリーみたいでしたね。

アルフォンシン:あの児童は実際に同じ病気を患っており、午後2時になったら、授業中でも薬を飲ませなければいけません。つまり、あれは実話なのです。

――ということは、子どもの授業風景はすべてドキュメンタリーなのですか?

ダン・ウネケン(以下 ウネケン):これは監督のイバンが小学校で美術を教えた時に、実際に起きたことの再現です。授業風景もそうで、子どもたちに同じことをやってもらったわけです。
©2010 TIFF

――それにしても子どもたちの感受性の豊かさには、びっくりしてしまいます。樹木の絵を描いて、「木の根っこが地中を這って、人間に奪われた木材を取り返しに行くんだ」とか、「親鳥がヒナの面倒を見ないことに、木は怒っているんだ」とか。大人には考えつかないようなロジックで絵の説明をします。

ウネケン:絵も説明も、すべては1年前にイバンが体験したことです。

――どおりで真に迫っていると思いました。物語として面白かった先生たちの挿話についてもお尋ねしたいのですが、主人公の美術教師ホセ・マリアと国語教師のアングスチウスは、わが子との関係性において同じような不運な境遇にありながら、人生は対比的に描かれています。かたや新たな人間関係を作り、かたやそれがうまくできずにもがいているような印象です。こうしたニュアンスに富んだ描き方には、なにかヒントのようなものがあったのでしょうか?

アルフォンシン:映画の中に描かれた教師像は、ほとんどがノエル監督の20年におよぶ教師生活の見聞に基づくものです。そうした意味では、教師それぞれにモデルがいたと言ってもいいはずです。

――生徒が実際の生徒であれば、教師役も実際の教師の方が演じられたのですか?

アルフォンシン:2〜3人はほんとうの教師です。私を含めた4人が俳優で、美術教師の他に算数と国語の教師、心理カウンセラーがそうです。あと校長先生役の人は、実はセルビアにある監獄に勤務する精神科医です(笑)。それから実際の学校の父兄も2〜3人ほど参加しました。

――俳優とそれ以外の方々が入り交じって、あれだけリアルな教員会議を開いたというのは、いま聞いて驚きました。教師たちはひとつのテーブルを囲んでさまざまな問題点を語り合いますが、ヒリヒリしたムードや和やかな雰囲気が画面から漂い、実際その場に居合わせているような気分になりました。

アルフォンシン:監督は俳優が前面に出てしまえば、真実は語れなくなるという信条の持ち主なのです(笑)。

――保護者会に来た親たちが一斉にバナナを食べ始める場面がありますが、こうしたシュールな味付けはどんなふうに思いついたのでしょう?

アルフォンシン:カルロスという少年に人を見抜く能力があるという設定にし、彼の視点から見えてくるものを考えたのです。

――カルロスはマジシャンになりたい生徒で、学芸会では魔法使いを演じた子ですよね?

アルフォンシン:魔法使いイコール真実を知る神でもあるわけです(笑)。カルロスの視点から親の世界を眺めると、保護者会で旧弊な意見を言う親たちは猿にすぎない。それで一斉にバナナを食べてもらうことにしたわけです。

――この場面では、川に行って遊びの要素も取り入れながら算数を教えたいと教師が言うと、親たちが「事故にあったらどうするんだ」とか様々な理由で異議を唱えます。これは日本でもいま様々なかたちで試されている総合学習が、教師の思いだけではうまく行かないことをシニカルに描いた印象的な場面です。実際にスペインではこうしたことがよく起きるのでしょうか?

ウネケン:スペインは教育に関してはひどく保守的です。だから、いろんな新しい教育メソッドについても否定的な意見が多く聞かれます。そうしたこともあって、映画よりもっと高学年の生徒をあつかう学校の教師が、参考にするからぜひフィルムを貸してほしいと言ってくるのです(笑)。

(聞き手:赤塚成人)


『小学校!』
→作品詳細

previous next
KEIRIN.JP本映画祭は、競輪の補助を受けて開催します。TIFF History
第22回 東京国際映画祭(2009年度)