2010.10.25
[インタビュー]
アジアの風『恋の紫煙』パン・ホーチョン(彭浩翔)監督インタビュー(10/25)
禁煙条例が施行された香港を舞台に描く、愛煙家たちのラヴストーリー『恋の紫煙』。TIFF常連の人気監督=パン・ホーチョンさんに話を聞いた。
――パン監督の映画は、最新監督作の『維多亞壹號』(10)を除く全作が上映されています。監督にとって、東京国際映画祭の魅力とは何ですか?
東京国際映画祭の観客は、アツい人が多いですね。好きになった監督の作品が出品されるたびに、毎回必ず観に来てくれるような。香港の観客はスター目当てで来る人がほとんどなんですが、ここには監督を“ひとりの作家”としてみてくれる観客がいる。これはクリエイターにとっては、とても感動的な事実です。
――そんな観客を引きつける監督の映画の魅力は、その独特な、ちょっとマニアックな視点にあるかと思います。監督は、一般的な商業性と、対照的なマニアックさとのバランスをどのようにとっていますか?
自分としては、常に商業的な成功を目指しているんで、あまりマニアックといわれると困っちゃうんですけど(苦笑)。ですが、映画の市場というのは、どうしても似たような作品が生まれやすい傾向にありますよね。ヒットした作品のマネというか。でも、『トランスフォーマー』がヒットしたからといって、僕にはフルCGでSF映画を撮る予算はない。だから他の手を考えるんです。違うからこそ、観客を引きつけられるものを。
――かつて隆盛をきわめた香港映画は、ひとつヒット作がうまれると、同じテーマで作品が量産されるというものでした。そういう伝統とは隔絶された感性をもっているところに、パン監督の“現代性”を感じますね。
僕は飽きっぽい性格なんで、同じテーマで作品をつくり続けることができないんですよ(笑)。
――『恋の紫煙』で描かれた「煙草を媒介としたラヴストーリー」という着想は、どのように生まれたんですか?
香港でのことなんですが、ある日、友人と食事をした後に彼の会社に一緒に行ったんです。すると、会社のビルのエレベーターホールで、彼に何人もの女の人が親しげに挨拶してくるんですよ。会社の同僚でもない、オフィスのフロアも違う女性たちが。これは何故だろうと彼に話を訊いてみると、オフィスビル内では煙草が吸えないので、いつも近所の路地裏で一服している。彼女たちとはそこで知り合ったんだ、と。僕は驚愕しました。僕は煙草は吸わないんですが、そのせいで数多くの女性と知り合う機会を逸していたんですよ! 香港では禁煙条例が施行されて以来、そのような新しい“社交場”が次々に誕生しています。そこはまた、バックグラウンドの異なる人たちの“出会いの場”でもあるんです。このことに気がついた僕は、『恋の紫煙』の脚本を書き始めたんです。
――煙草を吸わないパン監督だけに、「煙草だらけ」の現場では苦労されたんじゃないですか?
まず何より、煙の充満する現場に近づきたくなかったです(笑)。最初はガマンしていたんですけど、最終的にはトランシーバーを使って遠隔指示を出していました。それと、(煙草の)長さの繋がりを調整しなければならないので、1カット撮影するたびに煙草を交換していたら、気がついたら予算オーバー。煙草の単価を甘くみていましたね。
――僕は以前に、パン監督が「香港映画界が中国(大陸)との合作に走るので、自分は純香港映画にこだわりたい」と発言されていたのを読んで、ちょっとシビれたことがあるんですが、今回の『恋の紫煙』も、まさに“メイド・イン・ホンコン”といった作品でした。
ところが、最近は状況が変わってきまして、自分も中国との合作は避けて通れなくなりそうです。映画の出資者は、もう純度100%の香港映画には目を向けてくれません。残念ながらね。そこで、僕は映画制作の拠点を北京に移しました。手はじめに40分間の短編『指甲人魔』(※1)を製作しまして、現在は中国での長編第1作『断了片』(※2)をプロデュースしています。ここ数年、中国でつくられている香港との合作映画は時代劇のアクション大作がほとんどじゃないですか。でも、僕は他にも撮るべきテーマはいっぱいあると思うんで、これまで撮ってきたような、ちょっとひねった視点の作品をつくって、多くの人に観てもらいたいと思っています。
※1●監督:デレク・ツァン(曾国祥)/ジミー・ワン(尹志文) 主演:ジョウ・シュン/ローレンス・チョウ(周俊偉) http://ent.sina.com.cn/f/m/phxfao/index.shtml
※2●監督:デレク・ツァン/ジミー・ワン 主演:ショーン・ユー/チャン・ジンチュー(張静初)
『恋の紫煙』
©2010 TIFF
――パン監督の映画は、最新監督作の『維多亞壹號』(10)を除く全作が上映されています。監督にとって、東京国際映画祭の魅力とは何ですか?
東京国際映画祭の観客は、アツい人が多いですね。好きになった監督の作品が出品されるたびに、毎回必ず観に来てくれるような。香港の観客はスター目当てで来る人がほとんどなんですが、ここには監督を“ひとりの作家”としてみてくれる観客がいる。これはクリエイターにとっては、とても感動的な事実です。
――そんな観客を引きつける監督の映画の魅力は、その独特な、ちょっとマニアックな視点にあるかと思います。監督は、一般的な商業性と、対照的なマニアックさとのバランスをどのようにとっていますか?
自分としては、常に商業的な成功を目指しているんで、あまりマニアックといわれると困っちゃうんですけど(苦笑)。ですが、映画の市場というのは、どうしても似たような作品が生まれやすい傾向にありますよね。ヒットした作品のマネというか。でも、『トランスフォーマー』がヒットしたからといって、僕にはフルCGでSF映画を撮る予算はない。だから他の手を考えるんです。違うからこそ、観客を引きつけられるものを。
©2010 TIFF
――かつて隆盛をきわめた香港映画は、ひとつヒット作がうまれると、同じテーマで作品が量産されるというものでした。そういう伝統とは隔絶された感性をもっているところに、パン監督の“現代性”を感じますね。
僕は飽きっぽい性格なんで、同じテーマで作品をつくり続けることができないんですよ(笑)。
――『恋の紫煙』で描かれた「煙草を媒介としたラヴストーリー」という着想は、どのように生まれたんですか?
香港でのことなんですが、ある日、友人と食事をした後に彼の会社に一緒に行ったんです。すると、会社のビルのエレベーターホールで、彼に何人もの女の人が親しげに挨拶してくるんですよ。会社の同僚でもない、オフィスのフロアも違う女性たちが。これは何故だろうと彼に話を訊いてみると、オフィスビル内では煙草が吸えないので、いつも近所の路地裏で一服している。彼女たちとはそこで知り合ったんだ、と。僕は驚愕しました。僕は煙草は吸わないんですが、そのせいで数多くの女性と知り合う機会を逸していたんですよ! 香港では禁煙条例が施行されて以来、そのような新しい“社交場”が次々に誕生しています。そこはまた、バックグラウンドの異なる人たちの“出会いの場”でもあるんです。このことに気がついた僕は、『恋の紫煙』の脚本を書き始めたんです。
――煙草を吸わないパン監督だけに、「煙草だらけ」の現場では苦労されたんじゃないですか?
まず何より、煙の充満する現場に近づきたくなかったです(笑)。最初はガマンしていたんですけど、最終的にはトランシーバーを使って遠隔指示を出していました。それと、(煙草の)長さの繋がりを調整しなければならないので、1カット撮影するたびに煙草を交換していたら、気がついたら予算オーバー。煙草の単価を甘くみていましたね。
――僕は以前に、パン監督が「香港映画界が中国(大陸)との合作に走るので、自分は純香港映画にこだわりたい」と発言されていたのを読んで、ちょっとシビれたことがあるんですが、今回の『恋の紫煙』も、まさに“メイド・イン・ホンコン”といった作品でした。
ところが、最近は状況が変わってきまして、自分も中国との合作は避けて通れなくなりそうです。映画の出資者は、もう純度100%の香港映画には目を向けてくれません。残念ながらね。そこで、僕は映画制作の拠点を北京に移しました。手はじめに40分間の短編『指甲人魔』(※1)を製作しまして、現在は中国での長編第1作『断了片』(※2)をプロデュースしています。ここ数年、中国でつくられている香港との合作映画は時代劇のアクション大作がほとんどじゃないですか。でも、僕は他にも撮るべきテーマはいっぱいあると思うんで、これまで撮ってきたような、ちょっとひねった視点の作品をつくって、多くの人に観てもらいたいと思っています。
※1●監督:デレク・ツァン(曾国祥)/ジミー・ワン(尹志文) 主演:ジョウ・シュン/ローレンス・チョウ(周俊偉) http://ent.sina.com.cn/f/m/phxfao/index.shtml
※2●監督:デレク・ツァン/ジミー・ワン 主演:ショーン・ユー/チャン・ジンチュー(張静初)
(聞き手:杉山亮一)
『恋の紫煙』
©2010 Media Asia Films (BVI) Ltd.