2010.10.25
[イベントレポート]
10/25(月) 日本映画・ある視点『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』 Q&A
10月25日(月)、TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen6にて『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の上映後にはQ&Aが行われました。
本作がメジャーデビューとなる瀬田なつき監督が緊張の面持ちで登壇しました。
――まーちゃんとみーくんが映画を見ているシーンで『ガメラ』を見ているんですが、世の中いろんな映画があるなかで、なぜガメラだったのですか?
瀬田なつき監督(以下 監督):あのシーンの前のところで連続殺人が起こっていて、人が死ぬっていうのが映画の中で違う意図で使われているような映画をそこで使いたいなと思っていました。テレビでは怪獣が人を襲って殺しているし、外では殺人事件も起こっているというのを表すためにガメラを使いました。ガメラは角川映画(※製作時は大映)なんですけども、角川映画の中でそういうシーンが起こっている映画を探してケロロとかも教えていただいたんですけど、ケロロは意外に可愛くて(笑)。『ガメラ』を三部作いろいろ見てあのシーンがいちばんベストだなと思って使いました。『ガメラ』は好きだったので使えて嬉しかったし、あのシーンが豪華になったかなと喜んでいます。
Q:ラストシーンのエキストラに参加したのですが、あの日は寒くて風も強くて大変でした。撮影の苦労話とか、思いのほかよく出来た場面とかあったら教えてください。
監督:寒かったんですよー。さっきいつ撮影されてたんですかと聞かれて、5月末から6月のあたまくらい3週間弱の撮影だったんです。あの日だけすごく寒くて。この映画の中でいちばん豪華な、人がたくさん出てくるシーンで、200人くらいのエキストラの方をあの中に呼んで。ほんとは人もぜんぜんいないただの空き地に美術の方にフェスティバルをお願いします!ということを言ったら、風船いいんじゃないって話で、風船を持って頂いて。近所のマンションに住んでいる方とかも来て頂いて結局350人くらいになって。たいへんだったのが風船を飛ばすところですね。風船も朝からずっと膨らまして頂いていて予算もないし1回しか出来ないので。どうやって飛ぶのかとかどうやって映るかとかもまったくわからない状況で意外に曇り空で後ろは白くてっていう。あそこのシーンは1日で撮ったんですけどけっこうスリリングで、陽が落ちたらやばいやばいみたいな感じで。ファンタスティックなシーンなんですけど、裏ではドタバタドタバタ(笑)。「あー飛んだ!」「きれいじゃん!」みたいな感じでした(笑)
――(笑)ご自身としてはたいへんだったけれどすごくよかったと。
監督:見ててスタッフもエキストラに来てくださった方々も、あの時、妙な興奮や妙な一体感みたいなのが生まれて。
Q:非常におもしろい映画ありがとうございました。監督はこの作品が商業映画の長編デビューとなるかと思いますが、文体も非常にユニークでかなり強力な個性を放っている原作を映像化するにあたって、それに負けない演出を意識されましたか?
監督:この原作と私とどう向き合えばいいんだろうということですごく考えました。原作はたくさんの要素があるんですけれども、そこでいちばん面白いというか核にしたいなと思ったのは、みーくんとまーちゃんの関係性というところで。見ていただいたからもう言っていいと思うんですけれども、たいへんなんですよね、ちょっと登場人物の名前ですらネタバレになってしまうところがあって(笑)みーくんていうのがほんと嘘をついてないとみーくんとしていられない、壊れやすい、フラジャイル、とてももろいような2人の繊細な関係を表すのがすごく面白いなって思いました。
――先ほどちょっと舞台挨拶のほうで聞いた質問で、「嘘だけど」、っていうのが何度もキメ台詞で出てくるわけなんですけれども、難しいと思うんですよね表現が。
監督:そうですね。「嘘だけど」、っていうのが文章の中ではモノローグで書いてあるんで、心の声だったらナレーションのように「嘘だけど」、って言えるんですけど、それを映像でぶつぶつ言ってるのはくやしいなと思って。で言わせて見よう、でも言ったら、向かってる相手が、え、それ嘘なのってことになっちゃうので観客のみなさんに向けて「嘘だけど」、っていうことで。この台詞は全部カメラ目線でカットを変えて撮っています。
「嘘だけど」って言ったあとのカットは、サイズをまた変えてみーくんだけじゃなくて他の人も映ってるカットにしようとか。だんだん後半に行くにつれて、「嘘だけど」、が地となる映像になじむようにして。屋上で「嘘だけど」、ってつぶやいてるときだけは、カメラ目線じゃなくて普通につぶやいた、誰にも聞こえないから声に出した、っていうふうに作っていきました。
――染谷さんに聞いたときには、言い方もスタッフの人たちにアイディアを出していただいて何パターンか撮って選んだとおっしゃってましたね。
監督:そうですね。「嘘だけど」、が出てくるとカット数が増えたりするんで、周りのスタッフのひとたちは、「あ、「嘘だけど」出たーっ・・・」みたいになってたんですけど(笑)
でも、色々工夫や変化をつけてくれて、照明の方がキラッと鏡で光を入れてくれたり、撮ったあとも音のところで録音の効果の方が、かえるがいたらゲロとか声を入れて頂いて。「嘘だけど」、っていうキーワードにいろいろ味付けをしてくれて。
――現場でもかなり流行ってたんじゃないですか、このキーワード。
監督:そうですねちょこちょこなにかと(笑) クランクアップのときとかも、「じゃぁ次はパート2で!嘘だけど。」みたいな。ちょっとせつないんですけどね(笑)
――(笑)いやいやパート2あるかもしれませんよー!
監督:「ラストカットです!嘘だけど。あ、もう1カット残ってましたー」みたいな(笑) けっこう難しいなっていうのがありまして。声に出しちゃうんで(笑)
Q:私もまだ原作は未読なのですが、10年前の殺人事件のところとかほんとうはとても重い題材だと思うんですけれども、そういうものを取り上げるにあたって覚悟のようなものはあったんでしょうか?
監督:10年前と現在ではカラーを相当変えました。トラウマというと4文字ですごく簡単に言えちゃうんですけれど、トラウマものを扱うにあたって重くなったり暗くなったりというのが、まぁそうでしょうということなんですけど。大政さんと染谷くんのパートが明るくポジティヴというかトラウマを持っているけれどどう付き合っていくかという、前向きであるっていうことがあるのと、過去は相当陰惨で暗く。色も現代は明るく、過去は暗くっていう。暗いからこそ2人の明るさが明るいだけじゃなく違うように見えればいいなと思って描きました。過去の重さと現代の軽さっていうのを一緒に見たときに、だんだん最初の2人の姿が、最後2人が歩いていくときはなんかハッピーのように見えるんですけれども、そうは見えない。けれど2人が幸せだと思っていても周りがどう思っていても幸せなのかどうなのかっていうように見えればいいなぁと思いました。見る人によって違うと思うんですけれども、過去が不幸だったら今も不幸だというふうには思わせたくないなと思いました。
――ちょっと極端な表現をするかもしれませんけども、いわゆるまったく同じ経験ではないですけれどもすごく大きなトラウマを抱えた方がどう思われるかということも考えました?
監督:自分では経験してないんで、どう思うかって言うのはたぶんそこを突き詰めるといろいろなところでほころびというか、たぶん精神科医の先生とか出てくるんですけれども。2人のラブストーリーというメインに考えたので。トラウマを抱えてたら不幸だ、っていうふうには見えないように、可哀想だからなにをしてもいい、というふうには見えないようにしたいなと思いました。
――どう見てもらえたら嬉しいなと思いますか?
監督:過去に重いものをもっている方たちも、まぁちょっと人の気持ちはわからないんですけれども。自分の気持ちの持ちようと相手との距離、関わりで、乗り越えるといこうとこまでこの映画では描いていないなんですけれども、トラウマとどう付き合っていくか、というところをメインにしたというかそういうような原作の消化をしました。
Q:とても面白い映画でした。(舞台上にある)ポスターを見ていて思ったのですが、みーくんは嘘を、簡単なようで重く難しくついてますね。そのポスターを見ると下を向いているので、嘘(をつくこと)に罪悪感を感じているんでしょうか?
監督:本当のことを言うのを最初のころは照れていたりもするんですが、だんだん感じていっているときは表現もかわいくなって、大げさにしていきました。でもだんだんみーくん自体が嘘というか、架空の存在で、本物ではなくて、みーくんを演じているということが分かってくるあたりからは、「嘘だけど」と、重くしていって、過去や過去の自分と向き合っている。取調室のシーンでは、「嘘だけど」、「嘘だけど」と連呼している声が自分とは違うところから聞こえてくるような感じで使いました。だんだん罪悪感というものを、そう呼んでいいか分からないのですが、嘘の扱いが変わってみえてくると面白いかな、と意識しました。最後は、未来への希望というか、未来のことを言ったら嘘になるかどうか分からないなと思って、いろいろなところで嘘をついた経験とこれからの希望を、もしかしたら嘘じゃなくなるかもしれないと思って。モノローグでたくさんのセリフを入れたのは未来のことなら、嘘も本当になるかもしれないという思いを込めたつもりです。
――ちなみにポスターは監督が決めたんですか?
監督:写真撮影のときは立ち会いましたが、宣伝部の方が決めてくださいました。「壊れた」の下に笑顔があって、「嘘つき」の下にちょっと何か持っている感じが出ていて、インパクトがあっていいな、と思っています。
実は、結構何パターンも撮っていて、まーちゃんが笑っていなくて、みーくんがこっちを向いているものもあったのですが、二人を象徴するような感じでこのポスターになったんだと思います。
――お二人のキャラクターが出ていますよね。
監督:うまく表れているポスターだなと思います。
――この二人をキャスティングした理由というのは何ですか?
監督:大政さんに関しては、一度お会いしたとき、ちょうどバンクーバーオリンピックのときだったんですけど、『ヤマトナデシコ七変化』というドラマをやっていたときです。前髪がパツンとなって、目がすごく出ていて、じっとこっちを見られると「おっ」と思うくらいで、目力と言われていますけど、すごくまっすぐな目を持っている人です。でも話し始めて、笑ったりすると、猫みたいにフニャッとなっちゃう、そのギャップが、まーちゃんのコロコロ変わる表情に合ってるなと思って、ちょっと何を考えているか分からないような独特の雰囲気があって、「まーちゃんがこんなところにいた!」と。それで出演していただくことになりました。
――壊れ具合については、大政さんから相談とか感想とか聞いたことはありますか?
監督:壊れ具合は、ポイントでスイッチが入るという感じでした。リハーサルしながら、いきなり物を投げ始めたり、首絞めたりというのは、ここでスイッチを入れてください、と言って、例えば振り返るタイミングとかで、切り替えてもらったりしました。でも何役もやっている感じになっちゃって、大変そうでした。(大政さんには)「私、こんなんじゃないんです」と言われて、ひどいことをさせてるんだなと思いました(笑)。「共通点とかありますか?」とか無茶なことを聞いたら、すっごい悩んでしまわれて。「あぁ、いいです。すみません」と。
――大政さんてこういう人なんだろうな、とこの映画を見た人が思ったとしたら、大政さんの演技がよかったということですよね。
監督:そういう人がいてもいいかも、と思っちゃう魅力が(彼女には)あるんです
――染谷さんは?
監督:みーくんには、原作で笑えない設定があって、(その設定のために)役者の人に表情を変えないで演技してください、というのは結構ハードルの高いことなんです。そういうことができる役者の方で、高校生ぐらいの若者で、まーちゃんを受けて演技を組み立てていくということができる人を探して、染谷くんの出演作を何作か見せていただきました。「あぁ、ここにもみーくんがいた」という感じでした。演技に対して本当に真摯で、みーくんという役に関してものすごく悩んで、自分が出演しない過去の回想シーンとかでも、研究しに見に来ていてました。こういう残酷な目にあったからみーくんはこうなるかな、とか一緒に考えたりしました。眉の動かし方とか、こういうふうにしたらかわいいんじゃない?とか。染谷くんでなかったら、みーくんはできなかったなと、ほんとうに愛おしいです。
――じゃあ、ベストキャスティングで出来たということですね。
監督:そうですね。別の人でやっていたら、全然違う作品になっちゃうだろうな、と思います。みーくんと染谷くん、まーちゃんと大政さんの中間をうまく演じてくれたと思います。
Q:すばらしい映画をありがとうございます。「ルージュの伝言」が挿入歌として、特徴的に使われていますが、それはどういう考えからですか?
監督:そうですね。インパクトがありますよね。私にとって「ルージュの伝言」というのは、「魔女の宅急便」で物語が始まるときの音楽の印象があります。「魔女の宅急便」は女の子の青春物語ですが、そこで流れている明るい出発の曲という、子供時代のイメージがあって、20年くらい前だと思うんですけど。その雰囲気がいいな、と現場で仮で使っていたら、そしたら柴崎コウさんが歌ってくださるということになりました。それなら残酷なシーンで使っているのはインパクトがあって、その曲は何ヶ所かで使うことは決まっていて、最初の過去のシーンで流れていて、現在のシーンでも流れている。そういう何ヶ所かで過去と現在をつなぐキーになっていて、現在の私たちも知っている曲を使うことで、今の私たちの世界と映画をリンクさせられる曲として使えればいいなと思って。残酷なシーンは、本当に、曲がなくても残酷なんですが、そういう過去と現在をうまくつなぐ一番残酷な使い方をしたんですが、どういうふうに観たらよいのか混乱させたいという意図もあって。観ている方が、ただ残酷なだけじゃなくて、明るい記憶が曲と一緒に残っているものを使うことで、さらに残酷になったのか、消化できにくくなったのか、観ている方に委ねてしまうところは大きいんですが。
――残酷なことをしたという感覚も持てなくなって・・・
監督:そこで壊れちゃう、というマユの壊れちゃったというポイントがそこなんですが、そこが一番強い力をもって、音と映像で見せるということを考えたときに、柴崎さんが歌ってくださった「ルージュの伝言」の音楽がはまったという感じです。
――ありがとうございます。最後に、嘘でもいいので、2作目はどんな作品をやってみたいですか?
監督:この作品はフィクションで、原作の世界観と自分の世界観をファンタジックな感じで描いていて、こういうのも続けていきたいですし、街とか人とかもうちょっと多く映るような、今の自分が住んでいる世界を題材にしたような作品も撮ってみたいなと思います。それと人が飛んだり、飛ばされたりもしたいです、そういうのは好きなんで(笑)。現在の街と、驚かせるような要素を混ぜたような作品を撮っていければいいなと思います。「みーまー2」はあるのかどうか分かりませんが・・・。
――大きく出て、「嘘だけど」って言ってみます?
監督:そうですね(笑)
瀬田なつき監督、大政 絢さん、染谷将太さん、田畑智子さんが登壇した10/25の舞台挨拶の模様はコチラ
本作がメジャーデビューとなる瀬田なつき監督が緊張の面持ちで登壇しました。
©2010 TIFF
――まーちゃんとみーくんが映画を見ているシーンで『ガメラ』を見ているんですが、世の中いろんな映画があるなかで、なぜガメラだったのですか?
瀬田なつき監督(以下 監督):あのシーンの前のところで連続殺人が起こっていて、人が死ぬっていうのが映画の中で違う意図で使われているような映画をそこで使いたいなと思っていました。テレビでは怪獣が人を襲って殺しているし、外では殺人事件も起こっているというのを表すためにガメラを使いました。ガメラは角川映画(※製作時は大映)なんですけども、角川映画の中でそういうシーンが起こっている映画を探してケロロとかも教えていただいたんですけど、ケロロは意外に可愛くて(笑)。『ガメラ』を三部作いろいろ見てあのシーンがいちばんベストだなと思って使いました。『ガメラ』は好きだったので使えて嬉しかったし、あのシーンが豪華になったかなと喜んでいます。
Q:ラストシーンのエキストラに参加したのですが、あの日は寒くて風も強くて大変でした。撮影の苦労話とか、思いのほかよく出来た場面とかあったら教えてください。
監督:寒かったんですよー。さっきいつ撮影されてたんですかと聞かれて、5月末から6月のあたまくらい3週間弱の撮影だったんです。あの日だけすごく寒くて。この映画の中でいちばん豪華な、人がたくさん出てくるシーンで、200人くらいのエキストラの方をあの中に呼んで。ほんとは人もぜんぜんいないただの空き地に美術の方にフェスティバルをお願いします!ということを言ったら、風船いいんじゃないって話で、風船を持って頂いて。近所のマンションに住んでいる方とかも来て頂いて結局350人くらいになって。たいへんだったのが風船を飛ばすところですね。風船も朝からずっと膨らまして頂いていて予算もないし1回しか出来ないので。どうやって飛ぶのかとかどうやって映るかとかもまったくわからない状況で意外に曇り空で後ろは白くてっていう。あそこのシーンは1日で撮ったんですけどけっこうスリリングで、陽が落ちたらやばいやばいみたいな感じで。ファンタスティックなシーンなんですけど、裏ではドタバタドタバタ(笑)。「あー飛んだ!」「きれいじゃん!」みたいな感じでした(笑)
――(笑)ご自身としてはたいへんだったけれどすごくよかったと。
監督:見ててスタッフもエキストラに来てくださった方々も、あの時、妙な興奮や妙な一体感みたいなのが生まれて。
Q:非常におもしろい映画ありがとうございました。監督はこの作品が商業映画の長編デビューとなるかと思いますが、文体も非常にユニークでかなり強力な個性を放っている原作を映像化するにあたって、それに負けない演出を意識されましたか?
監督:この原作と私とどう向き合えばいいんだろうということですごく考えました。原作はたくさんの要素があるんですけれども、そこでいちばん面白いというか核にしたいなと思ったのは、みーくんとまーちゃんの関係性というところで。見ていただいたからもう言っていいと思うんですけれども、たいへんなんですよね、ちょっと登場人物の名前ですらネタバレになってしまうところがあって(笑)みーくんていうのがほんと嘘をついてないとみーくんとしていられない、壊れやすい、フラジャイル、とてももろいような2人の繊細な関係を表すのがすごく面白いなって思いました。
――先ほどちょっと舞台挨拶のほうで聞いた質問で、「嘘だけど」、っていうのが何度もキメ台詞で出てくるわけなんですけれども、難しいと思うんですよね表現が。
監督:そうですね。「嘘だけど」、っていうのが文章の中ではモノローグで書いてあるんで、心の声だったらナレーションのように「嘘だけど」、って言えるんですけど、それを映像でぶつぶつ言ってるのはくやしいなと思って。で言わせて見よう、でも言ったら、向かってる相手が、え、それ嘘なのってことになっちゃうので観客のみなさんに向けて「嘘だけど」、っていうことで。この台詞は全部カメラ目線でカットを変えて撮っています。
「嘘だけど」って言ったあとのカットは、サイズをまた変えてみーくんだけじゃなくて他の人も映ってるカットにしようとか。だんだん後半に行くにつれて、「嘘だけど」、が地となる映像になじむようにして。屋上で「嘘だけど」、ってつぶやいてるときだけは、カメラ目線じゃなくて普通につぶやいた、誰にも聞こえないから声に出した、っていうふうに作っていきました。
――染谷さんに聞いたときには、言い方もスタッフの人たちにアイディアを出していただいて何パターンか撮って選んだとおっしゃってましたね。
監督:そうですね。「嘘だけど」、が出てくるとカット数が増えたりするんで、周りのスタッフのひとたちは、「あ、「嘘だけど」出たーっ・・・」みたいになってたんですけど(笑)
でも、色々工夫や変化をつけてくれて、照明の方がキラッと鏡で光を入れてくれたり、撮ったあとも音のところで録音の効果の方が、かえるがいたらゲロとか声を入れて頂いて。「嘘だけど」、っていうキーワードにいろいろ味付けをしてくれて。
――現場でもかなり流行ってたんじゃないですか、このキーワード。
監督:そうですねちょこちょこなにかと(笑) クランクアップのときとかも、「じゃぁ次はパート2で!嘘だけど。」みたいな。ちょっとせつないんですけどね(笑)
――(笑)いやいやパート2あるかもしれませんよー!
監督:「ラストカットです!嘘だけど。あ、もう1カット残ってましたー」みたいな(笑) けっこう難しいなっていうのがありまして。声に出しちゃうんで(笑)
Q:私もまだ原作は未読なのですが、10年前の殺人事件のところとかほんとうはとても重い題材だと思うんですけれども、そういうものを取り上げるにあたって覚悟のようなものはあったんでしょうか?
監督:10年前と現在ではカラーを相当変えました。トラウマというと4文字ですごく簡単に言えちゃうんですけれど、トラウマものを扱うにあたって重くなったり暗くなったりというのが、まぁそうでしょうということなんですけど。大政さんと染谷くんのパートが明るくポジティヴというかトラウマを持っているけれどどう付き合っていくかという、前向きであるっていうことがあるのと、過去は相当陰惨で暗く。色も現代は明るく、過去は暗くっていう。暗いからこそ2人の明るさが明るいだけじゃなく違うように見えればいいなと思って描きました。過去の重さと現代の軽さっていうのを一緒に見たときに、だんだん最初の2人の姿が、最後2人が歩いていくときはなんかハッピーのように見えるんですけれども、そうは見えない。けれど2人が幸せだと思っていても周りがどう思っていても幸せなのかどうなのかっていうように見えればいいなぁと思いました。見る人によって違うと思うんですけれども、過去が不幸だったら今も不幸だというふうには思わせたくないなと思いました。
――ちょっと極端な表現をするかもしれませんけども、いわゆるまったく同じ経験ではないですけれどもすごく大きなトラウマを抱えた方がどう思われるかということも考えました?
監督:自分では経験してないんで、どう思うかって言うのはたぶんそこを突き詰めるといろいろなところでほころびというか、たぶん精神科医の先生とか出てくるんですけれども。2人のラブストーリーというメインに考えたので。トラウマを抱えてたら不幸だ、っていうふうには見えないように、可哀想だからなにをしてもいい、というふうには見えないようにしたいなと思いました。
――どう見てもらえたら嬉しいなと思いますか?
監督:過去に重いものをもっている方たちも、まぁちょっと人の気持ちはわからないんですけれども。自分の気持ちの持ちようと相手との距離、関わりで、乗り越えるといこうとこまでこの映画では描いていないなんですけれども、トラウマとどう付き合っていくか、というところをメインにしたというかそういうような原作の消化をしました。
Q:とても面白い映画でした。(舞台上にある)ポスターを見ていて思ったのですが、みーくんは嘘を、簡単なようで重く難しくついてますね。そのポスターを見ると下を向いているので、嘘(をつくこと)に罪悪感を感じているんでしょうか?
監督:本当のことを言うのを最初のころは照れていたりもするんですが、だんだん感じていっているときは表現もかわいくなって、大げさにしていきました。でもだんだんみーくん自体が嘘というか、架空の存在で、本物ではなくて、みーくんを演じているということが分かってくるあたりからは、「嘘だけど」と、重くしていって、過去や過去の自分と向き合っている。取調室のシーンでは、「嘘だけど」、「嘘だけど」と連呼している声が自分とは違うところから聞こえてくるような感じで使いました。だんだん罪悪感というものを、そう呼んでいいか分からないのですが、嘘の扱いが変わってみえてくると面白いかな、と意識しました。最後は、未来への希望というか、未来のことを言ったら嘘になるかどうか分からないなと思って、いろいろなところで嘘をついた経験とこれからの希望を、もしかしたら嘘じゃなくなるかもしれないと思って。モノローグでたくさんのセリフを入れたのは未来のことなら、嘘も本当になるかもしれないという思いを込めたつもりです。
――ちなみにポスターは監督が決めたんですか?
監督:写真撮影のときは立ち会いましたが、宣伝部の方が決めてくださいました。「壊れた」の下に笑顔があって、「嘘つき」の下にちょっと何か持っている感じが出ていて、インパクトがあっていいな、と思っています。
実は、結構何パターンも撮っていて、まーちゃんが笑っていなくて、みーくんがこっちを向いているものもあったのですが、二人を象徴するような感じでこのポスターになったんだと思います。
――お二人のキャラクターが出ていますよね。
監督:うまく表れているポスターだなと思います。
©2010 TIFF
――この二人をキャスティングした理由というのは何ですか?
監督:大政さんに関しては、一度お会いしたとき、ちょうどバンクーバーオリンピックのときだったんですけど、『ヤマトナデシコ七変化』というドラマをやっていたときです。前髪がパツンとなって、目がすごく出ていて、じっとこっちを見られると「おっ」と思うくらいで、目力と言われていますけど、すごくまっすぐな目を持っている人です。でも話し始めて、笑ったりすると、猫みたいにフニャッとなっちゃう、そのギャップが、まーちゃんのコロコロ変わる表情に合ってるなと思って、ちょっと何を考えているか分からないような独特の雰囲気があって、「まーちゃんがこんなところにいた!」と。それで出演していただくことになりました。
――壊れ具合については、大政さんから相談とか感想とか聞いたことはありますか?
監督:壊れ具合は、ポイントでスイッチが入るという感じでした。リハーサルしながら、いきなり物を投げ始めたり、首絞めたりというのは、ここでスイッチを入れてください、と言って、例えば振り返るタイミングとかで、切り替えてもらったりしました。でも何役もやっている感じになっちゃって、大変そうでした。(大政さんには)「私、こんなんじゃないんです」と言われて、ひどいことをさせてるんだなと思いました(笑)。「共通点とかありますか?」とか無茶なことを聞いたら、すっごい悩んでしまわれて。「あぁ、いいです。すみません」と。
――大政さんてこういう人なんだろうな、とこの映画を見た人が思ったとしたら、大政さんの演技がよかったということですよね。
監督:そういう人がいてもいいかも、と思っちゃう魅力が(彼女には)あるんです
――染谷さんは?
監督:みーくんには、原作で笑えない設定があって、(その設定のために)役者の人に表情を変えないで演技してください、というのは結構ハードルの高いことなんです。そういうことができる役者の方で、高校生ぐらいの若者で、まーちゃんを受けて演技を組み立てていくということができる人を探して、染谷くんの出演作を何作か見せていただきました。「あぁ、ここにもみーくんがいた」という感じでした。演技に対して本当に真摯で、みーくんという役に関してものすごく悩んで、自分が出演しない過去の回想シーンとかでも、研究しに見に来ていてました。こういう残酷な目にあったからみーくんはこうなるかな、とか一緒に考えたりしました。眉の動かし方とか、こういうふうにしたらかわいいんじゃない?とか。染谷くんでなかったら、みーくんはできなかったなと、ほんとうに愛おしいです。
――じゃあ、ベストキャスティングで出来たということですね。
監督:そうですね。別の人でやっていたら、全然違う作品になっちゃうだろうな、と思います。みーくんと染谷くん、まーちゃんと大政さんの中間をうまく演じてくれたと思います。
Q:すばらしい映画をありがとうございます。「ルージュの伝言」が挿入歌として、特徴的に使われていますが、それはどういう考えからですか?
監督:そうですね。インパクトがありますよね。私にとって「ルージュの伝言」というのは、「魔女の宅急便」で物語が始まるときの音楽の印象があります。「魔女の宅急便」は女の子の青春物語ですが、そこで流れている明るい出発の曲という、子供時代のイメージがあって、20年くらい前だと思うんですけど。その雰囲気がいいな、と現場で仮で使っていたら、そしたら柴崎コウさんが歌ってくださるということになりました。それなら残酷なシーンで使っているのはインパクトがあって、その曲は何ヶ所かで使うことは決まっていて、最初の過去のシーンで流れていて、現在のシーンでも流れている。そういう何ヶ所かで過去と現在をつなぐキーになっていて、現在の私たちも知っている曲を使うことで、今の私たちの世界と映画をリンクさせられる曲として使えればいいなと思って。残酷なシーンは、本当に、曲がなくても残酷なんですが、そういう過去と現在をうまくつなぐ一番残酷な使い方をしたんですが、どういうふうに観たらよいのか混乱させたいという意図もあって。観ている方が、ただ残酷なだけじゃなくて、明るい記憶が曲と一緒に残っているものを使うことで、さらに残酷になったのか、消化できにくくなったのか、観ている方に委ねてしまうところは大きいんですが。
――残酷なことをしたという感覚も持てなくなって・・・
監督:そこで壊れちゃう、というマユの壊れちゃったというポイントがそこなんですが、そこが一番強い力をもって、音と映像で見せるということを考えたときに、柴崎さんが歌ってくださった「ルージュの伝言」の音楽がはまったという感じです。
――ありがとうございます。最後に、嘘でもいいので、2作目はどんな作品をやってみたいですか?
監督:この作品はフィクションで、原作の世界観と自分の世界観をファンタジックな感じで描いていて、こういうのも続けていきたいですし、街とか人とかもうちょっと多く映るような、今の自分が住んでいる世界を題材にしたような作品も撮ってみたいなと思います。それと人が飛んだり、飛ばされたりもしたいです、そういうのは好きなんで(笑)。現在の街と、驚かせるような要素を混ぜたような作品を撮っていければいいなと思います。「みーまー2」はあるのかどうか分かりませんが・・・。
――大きく出て、「嘘だけど」って言ってみます?
監督:そうですね(笑)
瀬田なつき監督、大政 絢さん、染谷将太さん、田畑智子さんが登壇した10/25の舞台挨拶の模様はコチラ