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2010.10.26
[インタビュー]
コンペティション『隠れた瞳』ディエゴ・レルマン監督、フリエタ・シルベルベルクさん(女優) インタビュー(10/26)

ディエゴ・レルマン監督、フリエタ・シルベルベルクさん(女優)

1976年、アルゼンチンに軍事独裁政権が誕生した2日前に生まれたディエゴ・レルマン監督にとって、『隠れた瞳』を撮ることは宿命だったのかもしれない。独裁政権末期、エリートを養成する厳格な国立高校を舞台に、生活指導員として赴任した女性教員があらゆる欲求と葛藤する重厚な物語。全編を支配する緊張感と、主演フリエタ・シルベルベルクの抑制の効いた演技が鮮烈な印象を残す。
©2010 TIFF

――軍事独裁政権時代は幼少期ですが、記憶に残っていることはありますか?

ディエゴ・レルマン監督(以下:レルマン): 両親が反軍事政権の活動をしていたので、常に引っ越しをしていました。親せきの中には海外に移住した人もいれば、いなくなってしまった(殺された)人たちもいて、恐怖を覚えていたり、言葉にできない感情など感覚的な記憶が残っています。実際、そのころに描いた絵を見ると、閉じこもった世界で感じていたようなことが描かれています。
©2010 TIFF

――マーティン・コーハン著の小説「Ciencias Morales」が原作だそうですが、映画にしようと思った決め手は?

レルマン: 物語にオリジナリティーがあり、斬新な感じで描かれていたのが気に入ったんです。独裁政権が、今まで描かれてきたものとは違う手法で描かれていたので、とても面白かった。ただ、独裁政権は決してテーマではなくて、コンテクストにすぎない。そこに興味を覚えました。寓話的なところにも魅力を感じたし、いつかはこういうものを描くのではないかと思っていました。

――脚色するうえで気をつけたところはありますか?

レルマン: 主人公の女性が、学校という世界で規則の一部として存在していながら、男子生徒に恋心を抱くなど、徐々に欲求が生まれ自分自身をコントロールできなくなっていくところがすごく面白かった。そこをどうしても語りたいという気持ちが強かったですね。

――主人公はほとんど感情を表に出しません。役へのアプローチはどのように?

フリエタ・シルベルベルクさん(以下:シルベルベルク): 原作では、彼女の葛藤が非常に細かく描かれていて、すごく気持ちが揺れ動く女性だと思いました。例えば、生徒に対して厳しい一方で、生徒を欲望の対象としても見ている。内向的な女性なので、そういう過程での変化をどうやって演じるか。それが一番の作業で、何度もリハーサルを重ね、念入りに作りこんでいくのが非常に大事でした。
©2010 TIFF

――描かれている国立高校は現在もあるそうですが、撮影もそこで行われたのですか?

レルマン: 撮影した当時の校長にダメだと言われ、ロケ場所が見つからなくて、プロジェクト自体がなくなる寸前までいきました。あの空間の中で、人間の小ささを表現するのが非常に重要でしたから。結局、3カ所の学校と国会議事堂の一部が使えることになり、なんとか撮影ができました。

――2人があの学校に入っていたら、どういう人間になっていたでしょう?

レルマン: 仮定の話はなんでも想像できるから、どうなっていたか分からないですけれど、多分、全然違う人間になっていたと思います。

――ほとんどが学校内でのシーンで、当時の社会状況などは出てきません。あえてそういう描き方をしたのでしょうか?

レルマン: 描かれているのは、マルビーナス戦争(フォークランド紛争)の開戦間近、軍事政権への反発が強まり、政府が危機感をもっていたころです。外の世界ではデモが行われているのに、閉ざされた学校では普段どおりの生活がある。そういう対比を出したかったのです。
©2010 TIFF

――ラストシーンで主人公が取る行動は衝撃的でした。

シルベルベルク: 小説とは違う終わり方で、彼女の心が解き放たれる部分と、彼女が置かれた状況に対して行動できるようになるという部分が共存していると思います。

レルマン: 解釈は自由にしてもらいたいですね。確かに、解き放たれる部分は絶対あると思いますし、暴力的な世界に入っていく洗礼として、あのシーンが存在しているという解釈もできます。

アルゼンチン映画は、『瞳の奥の秘密』がアカデミー賞外国語映画賞を受賞するなど躍進が目覚ましい。『隠れた瞳』も、レルマン監督が斬新な手法で自国の負の歴史に深く切り込んでその実力を知らしめ、シルベルベルクは感情の機微を見事に表現した。サッカーだけではない、映画界においても“強豪”となるべく、存在感を増していきそうだ。

(聞き手:鈴木 元)


隠れた瞳
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