2010.10.24
[インタビュー]
コンペティション『ゼフィール』ベルマ・バシュ監督、シェイマ・ウズンラルさん インタビュー(10/24)
世界の映画祭でも新しい才能が話題となり躍進が続くトルコ映画。厳しい自然の中で、母親から離れ、祖父母と生活する少女の繊細な心境を斬新な映像でつづった『ゼフィール』は、そんな新しい才能の息吹と勢いを感じさせてくれる一本である。ベルマ・バシュ監督とゼフィールを演じたシェイマ・ウズンラルさんにお話を伺った。
――映画において大人と子供の対立が描かれる時、大人が子供を搾取するという図式が圧倒的かと思います。この映画は子供が自分の気持ちを通した結果、大人の視点から見ると脅威となるという描き方をしている点で、非常に独創的で力強い映画だと思います。
ベルマ・バシュ監督(以下 バシュ):子供を描いた映画では、“子供は純粋である”というステレオタイプな描き方があります。しかし私はそうではないと思っていて、そういったクリシェはやめたかった。子供の内面には、大人が忘れてしまったり、分からなくなってしまっている実に多くの嵐が吹いています。それは子供が生まれながらに持っている力です。大人は逆にその力が怖いと思っていて、教育を施したり、オーソリティーの立場に立ったりしてその力を押さえこもうとしているのです。“ゼフィール”という名前が意味するのは、「西から吹く優しい風」です。蝶々がはばたくような風。その風ですらも、実は大変に力があるということです。私たちは、大人になることによってその力を失おうとしている。そしてこの映画は、子供の成長の物語でもあります。
――ご自身が子供時代に過ごした祖父母の田舎の記憶から本作の着想を得たそうですが?
バシュ:私が自分の母親に対してああしたいと思ったことはありませんよ(笑)。トルコでは、実際に似たような事件が立て続けに起こり、私は関心を持ちました。それは、家族との臍帯を引きちぎって個人になるという行為でもあります。別の存在になり、個別性を獲得する。私自身はゼフィールとは違い、幸福な子供時代を過ごしましたが、逆に成長しても家族から感情的に「切れた」という関係を持つことができなかったんですね。それは従属してしまうということでもあります。成長するためには、臍帯を断ち切ることも必要なのです。
――全編を通して自然の厳しさや美しさが強調されています。子供の犯罪が描かれる場合、貧しい環境や悪い影響を与える友人など、外部的な影響が描かれることが多いと思います。それはさきほど監督も言われたように、“もともと子供は純真なものである”という考えから来ているように思います。この映画では、ゼフィールに悪影響を与えるような要素が見当たらず、常に自然と共に描かれるため、彼女の最後の行動がまるで自然の法則であるような不思議な説得力を持っているようでもあります。
バシュ:「母なる大地」という言葉がありますが、私はそれをメタフォリカルに使っています。この映画は三重の意味があります。まず一つは犯罪。タブロイド版で話題になるようなものです。二つ目が家族から臍帯を引きちぎって個人となる成長の物語。三つ目は、この映画が撮影されたのはコーカサス地方で、世界で最もエコロジカルな地域です。様々な植物や動物が生息し、最も豊かな地域であるにも関わらず私たちは人間の活動や建設、森林の伐採などによって恐ろしいスピードでそれらを破壊してしまっています。それをなんとかして今のうちに止めたいという思いがありました。
私は子供は自然と同じだと思います。自然が悪いものであるように悪く、自然がよいものであるようによい。毒キノコのように小さくて壊れやすいものであっても、大変危険で命を奪いかねないものもあります。
――ゼフィールを演じたシェイマ・ウズンラルさんにお聞きします。ゼフィールの行動は自然に理解できましたか? 演じるにあたって、苦労した点を教えてください。
バシュ: まず私から説明します。通しのシナリオを渡すのではなく、その場その場で演じるシーンのシナリオを渡すやり方を取ったんです。最期のシーンも、シェイマには具体的な意味を教えずに演じてもらいました。あのシーンから良くない影響を受けることを避けたかったのです。
シェイマ・ウズンラル(以下 ウズンラル): 夜遅くまで撮影することが多くて、朝起きるのが大変でした。山の頂上なので夜はとても寒いんです。
――撮影はどの位かかったのでしょう。
バシュ: 7週間半です。ひどい雨が降ったり気候条件が非常に悪く、撮影は大変でした。プロの俳優も母親役のみで後は素人だったので、撮影期間は長くなってしまいました。
――シェイマさんはその間学校は?
ウズンラル: 聞かれると思っていました(笑)。
バシュ: 実は私たちは親戚で、撮影した家は私の実家で、シェイマは隣の家に住んでるんです。撮影したのは夏休みでしたし。
――次回作の予定を教えてください。
バシュ: シリーズで考えていました。英語で言うと“Heroine’s journey beyond winds”です。今回の“Zephyr”もギリシャ神話の西風を現す神の名から来ていますが、デビュー短編“Poyraz”も北風を意味する神の名です。今度も風にまつわる話ですが、大都市で孤独な母親と17歳の娘の話を考えています。
『ゼフィール』
©2010 TIFF
――映画において大人と子供の対立が描かれる時、大人が子供を搾取するという図式が圧倒的かと思います。この映画は子供が自分の気持ちを通した結果、大人の視点から見ると脅威となるという描き方をしている点で、非常に独創的で力強い映画だと思います。
ベルマ・バシュ監督(以下 バシュ):子供を描いた映画では、“子供は純粋である”というステレオタイプな描き方があります。しかし私はそうではないと思っていて、そういったクリシェはやめたかった。子供の内面には、大人が忘れてしまったり、分からなくなってしまっている実に多くの嵐が吹いています。それは子供が生まれながらに持っている力です。大人は逆にその力が怖いと思っていて、教育を施したり、オーソリティーの立場に立ったりしてその力を押さえこもうとしているのです。“ゼフィール”という名前が意味するのは、「西から吹く優しい風」です。蝶々がはばたくような風。その風ですらも、実は大変に力があるということです。私たちは、大人になることによってその力を失おうとしている。そしてこの映画は、子供の成長の物語でもあります。
©2010 TIFF
――ご自身が子供時代に過ごした祖父母の田舎の記憶から本作の着想を得たそうですが?
バシュ:私が自分の母親に対してああしたいと思ったことはありませんよ(笑)。トルコでは、実際に似たような事件が立て続けに起こり、私は関心を持ちました。それは、家族との臍帯を引きちぎって個人になるという行為でもあります。別の存在になり、個別性を獲得する。私自身はゼフィールとは違い、幸福な子供時代を過ごしましたが、逆に成長しても家族から感情的に「切れた」という関係を持つことができなかったんですね。それは従属してしまうということでもあります。成長するためには、臍帯を断ち切ることも必要なのです。
――全編を通して自然の厳しさや美しさが強調されています。子供の犯罪が描かれる場合、貧しい環境や悪い影響を与える友人など、外部的な影響が描かれることが多いと思います。それはさきほど監督も言われたように、“もともと子供は純真なものである”という考えから来ているように思います。この映画では、ゼフィールに悪影響を与えるような要素が見当たらず、常に自然と共に描かれるため、彼女の最後の行動がまるで自然の法則であるような不思議な説得力を持っているようでもあります。
バシュ:「母なる大地」という言葉がありますが、私はそれをメタフォリカルに使っています。この映画は三重の意味があります。まず一つは犯罪。タブロイド版で話題になるようなものです。二つ目が家族から臍帯を引きちぎって個人となる成長の物語。三つ目は、この映画が撮影されたのはコーカサス地方で、世界で最もエコロジカルな地域です。様々な植物や動物が生息し、最も豊かな地域であるにも関わらず私たちは人間の活動や建設、森林の伐採などによって恐ろしいスピードでそれらを破壊してしまっています。それをなんとかして今のうちに止めたいという思いがありました。
私は子供は自然と同じだと思います。自然が悪いものであるように悪く、自然がよいものであるようによい。毒キノコのように小さくて壊れやすいものであっても、大変危険で命を奪いかねないものもあります。
――ゼフィールを演じたシェイマ・ウズンラルさんにお聞きします。ゼフィールの行動は自然に理解できましたか? 演じるにあたって、苦労した点を教えてください。
バシュ: まず私から説明します。通しのシナリオを渡すのではなく、その場その場で演じるシーンのシナリオを渡すやり方を取ったんです。最期のシーンも、シェイマには具体的な意味を教えずに演じてもらいました。あのシーンから良くない影響を受けることを避けたかったのです。
シェイマ・ウズンラル(以下 ウズンラル): 夜遅くまで撮影することが多くて、朝起きるのが大変でした。山の頂上なので夜はとても寒いんです。
©2010 TIFF
――撮影はどの位かかったのでしょう。
バシュ: 7週間半です。ひどい雨が降ったり気候条件が非常に悪く、撮影は大変でした。プロの俳優も母親役のみで後は素人だったので、撮影期間は長くなってしまいました。
――シェイマさんはその間学校は?
ウズンラル: 聞かれると思っていました(笑)。
バシュ: 実は私たちは親戚で、撮影した家は私の実家で、シェイマは隣の家に住んでるんです。撮影したのは夏休みでしたし。
――次回作の予定を教えてください。
バシュ: シリーズで考えていました。英語で言うと“Heroine’s journey beyond winds”です。今回の“Zephyr”もギリシャ神話の西風を現す神の名から来ていますが、デビュー短編“Poyraz”も北風を意味する神の名です。今度も風にまつわる話ですが、大都市で孤独な母親と17歳の娘の話を考えています。
(聞き手:夏目深雪)
『ゼフィール』
©FiLMiK / FC ISTANBUL, 2010 TURKEY
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