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2010.10.30
[インタビュー]
natural TIFF supported by TOYOTA 『ハッピー・ポエット』ポール・ゴードン監督インタビュー(10/30)

ポール・ゴードンが脚本・監督・編集・主演を務めた『ハッピー・ポエット』。この低予算の非常にドライなコメディは、テキサス州オースティンの公園でオーガニック食品の屋台を開こうと決意した、文学の学士号をもつビルという名の物静かな若い男を描く作品だ。
©2010 TIFF

――配給は決まっていますか?

ヴェネツィアでギリシャとポーランドの配給会社の人と会いました。たぶん、その2カ国では配給されるのかな、と思います。

――この作品の魅力について何と言っていましたか?

褒めてくれましたよ。気に入ってくれたと思いますが。

――演出や演技の素地はどこで身につけたのですか?

演技については特に何もしていません。“Mars”というロトスコープアニメの映画に出演したことがあります。その作品はロンドン映画祭でのみ上映されました。これまでではそれが一番の大役でした。他には、友人の作品に端役で出たことが何度かあるだけです。

――これが長編初監督作ですか?

“Motorcycle”という長編を作ったことがあります。4年前の作品で、いくつか映画祭で上映されました。ただ、その作品は、共通の登場人物でつながる3つの短編から成るものでした。3つとも映画学校で制作した作品です。その前には2001年に“Good”というタイトルの短編を映画学校に行く前に作り、この作品もいくつかの映画祭で上映されました。ですので、基本的には短編を撮っていましたので、本作が長編として撮った初作品です。
©2010 TIFF

――この作品は事実に基づいた物語ですか、それとも完全な創作ですか?

青天の霹靂的に浮かんだ話です。実は、私が書いた脚本で別の映画を撮るつもりでした。私と製作に関わってくれた友人で、その作品の資金集めをしていたんです。オースティン・フィルム・ソサエティからある程度まとまった額の助成金をもらったために、よそからは資金集めできなくなったのです。その作品の製作は延期せざるをえなくなったのですが、何かを撮りたくてしかたなかった私は、費用のかかる映画は諦め、新しいアイデアを練り始めました。ビジネスに関する物語にしたかったので、撮影をさせてくれるような喫茶店に働く友人はいないかな、と考えていたところ、屋台に思い至りました。移動ビジネスですから。屋台ならどこにでも停められるし、ある場所で疎まられても移動すればいいし、2~3時間撮影して、また移動すればいいと。

――財政状況にしたがって、作品を形成していった感じですね。

まさにそうです。それと出演してくれた2人の役者のために物語を書きました。いい役者だと思います。私の仲のいい友人でもあり、面白いやつらです。私がジョン、スクーターに乗った男ですが、彼の上司役だったら面白いなと考えました。ジョンは実際にスクーターを持っていたので、配達係の役にしました。1カ月くらいで脚本を書き、完成する前にリハーサルを始めました。ほとんど書き終わったころに気づいたのですが、物語の内容は私たちが映画の資金集めをしていたプロセスそのものでした。

――オーガニック食品販売のことはリサーチしましたか?

たくさんはしていません。私自身はどんな食べ物も好きです。オースティンの好きな店のメニューを集めて、サンドウィッチなどに仕立てただけなんです。

――商売の部分は?

食品販売の免許を取る方法については少し調べましたが、そこには焦点を当てませんでした。登場人物たちの関係性を描きたかったからです。

――この作品がnatural TIFF部門に選ばれているのは、おそらくオーガニックフードの要素があるからでしょうが、どちらかというとエコロジーや環境といった問題よりも資本主義について描いているように思います。そういったビジネスの思想についてメッセージがあったのですか?

特にそういう意識はありません。でも結末はバカげていて、常軌を逸していると思います。数多くの映画に見られる典型的なハッピーエンドが結構好きなんです。

――あんなに突然大成功するものかと思いましたが。

もっと説明しようかとも思ったのですが、大どんでん返しが起きて、突然新しい世界にいるという結末にしたかった。だから最後に女性が全員妊娠するんです。ハッピーエンドにはさらに幸せ度が増すために、突然の妊娠はつきものです。すべてがうまくいっているから、主人公も心から幸せにしたかったが、実際彼は以前よりも幸せになったというわけではない。彼は最後まで変わらない。「こんなに幸せなのは初めてだ」と言うけれど、そうは見えない。すごく微妙なところだから観客が気づいたかどうかは分からないけど。

――彼は捉えにくいキャラクターですからね。彼のやる気のない態度が笑いを生んでいます。ビルは明らかに信念があるのに、そのために闘うことはない。

私は彼を理想的な人物だとは思いますが、人にインスピレーションを与える人物では決してない。最後にもう少し自分自身のために立ちあがり、積極的なキャラクターにしたほうがよかったかもしれませんね。でも彼はずっと積極的でなかったわけじゃないけどね。

――確かに先見性はありますね。自分でビジネスを興したり。その点からすれば、典型的にアメリカ的な物語ですね。逆に周りの人たちは仕事の不満ばかり言っています。それは意図したことですか?

そうです。芸術に関わることをしたいと思ったら、あまり好きじゃない仕事もしなければなりません。屋台の仕事は、彼にとってはついに取り組んだ現実的な仕事だったのです。もちろん、非現実的な方法で取り組んだわけですが、彼はそうするしかなかった。彼は理想主義者で、いつも間違える。

――だからドニーがドラッグを売っていると分かり非常に失望したのですね。

ビルには裏切りだと思えたのです。それにビジネスがうまくいっていないときに発覚したことも影響しています。そういうとき事態は悪化するものだから、彼はドニーに怒り狂ったのです。「自分は利用されている。ビジネスを手伝う気などなかったのだ、街を走り回って、ドラッグを売るいいチャンスだくらいにしか見ていない」とね。ビルは自分が利用する立場だし、ドニーとは友達になったと思っていたから、余計に裏切られた感があったのです。ビルはかなり常識のない人間ですね。

――ユーモアについて、誰から影響を受けましたか?

リチャード・プライヤーはずっと好きです。アレキサンダー・ペインの映画も好きです。とても面白いですよ。デヴィッド・リンチの映画にも、細かいユーモアがちりばめられていて好きです。『ブルーベルベット』など、非常に笑える要素が含まれています。

――ドタバタ喜劇的な分かりやすい笑いには興味がないのですね。

あまりないです。でも『ブルースブラザーズ』とか『ピーウィーの大冒険』は好きです。現代のコメディで好きなものは少ないですね。『アダルト・スクール』は面白かったですが、デヴィッド・リンチやスティーブン・ソダーバーグのユーモアほど面白いとは思いませんね。

――もともと構想していた映画はどんな内容だったのですか?

シカゴに住む若いアフリカ系アメリカ人女性がバイクを盗む物語です。彼女は田舎にバイクで走っていき、白人コミュニティにある荒れ地でキャンプ生活を始めます。隣家に住む引退した司祭と、彼女は友達になっていくという話です。『ハッピー・ポエット』より、平凡でない物語ですね。『ハッピー・ポエット』については、ありきたりな構成でやってみるのが楽しいだろうなと思いました。もうひとつの作品は少し変わった構成ですし、登場人物も特殊です。『ハッピー・ポエット』の登場人物はありふれたキャラクターですが、映画のトーンやユーモアのセンス、撮影方法などが、ありふれた映画にはしていないと思います。

――物語のプロットが主導する映画と、登場人物が主導する映画とどちらが好きですか?

どちらの要素も必要ですが、プロットはキャラクターから生みだされるべきです。私はいつもキャラクターで遊んでいます。この作品で私が演じたビルとドニーの関係のような、興味深い人間関係が好きなのです。

――リチャード・リンクレイターのおかげで、テキサスのオースティンの人は皆のんびりしすぎているとの評価を得ています。あなたの映画でさらにその見方が強まりますね。オースティンは本当にそんな所ですか?

脚本を書いているときは、典型的なオースティン風の物語にしようとは意識していませんでした。大きな大学街ですから、通学のために移り住み、そのまま居続ける人が多いです。40代の修士号を持つ人たちでも、いまだに喫茶店で働く人もいます。だからオースティンにはそういうブラブラして、哲学を論じてみたり、子供のような生活を送る人が多いんですよ。結婚もせず、子供も持たず、真面目な職にも就かずに。

――今回が初めての来日ですか?

そうです。すごく楽しんでますよ。空いている時間に東京の街を観光していますが、しょっちゅう道に迷う。いつも迷子になるんです…。

(聞き手:フィリップ・ブレイザー)


『ハッピー・ポエット』
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