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2010.10.27
[インタビュー]
アジアの風 『パリから5時間』 レオン・プルドフスキー監督 インタビュー(10/27)

レオン・プルドフスキー監督

イスラエルでは、ロシアからの移民が人口の約20%を占めるという。レオン・プルドフスキー監督もその1人。サンクトペテルブルクに生まれ、13歳のときに首都テルアビブに移住した。そんな出自が発想のきっかけになった初監督作『パリから5時間』は、夫のいるロシア移民の音楽教師に恋心を募らせるタクシー運転手を主人公にした切ないラブストーリーだ。
©2010 TIFF

――監督自身がロシア移民であることは、映画製作に影響していますか?

本当にいい映画というのは、嘘がないものを描いている映画だと思っています。僕の実体験では、周りにロシア移民がいっぱいいるわけで、どんな言葉を使い、どんな感覚をもち、どんな肌触りか、そういうことがすべて分かっています。それを描くのが一番いいと思ったので、この作品もすべてではないけれど、ほぼ自分が知っていることを描きました。

――冒頭、主人公の息子が音楽教師のことを「ロシア移民の先生は変だ」と評するところは自虐的ですね。

ちょっとしたジョーク(笑)。でも、子どもって、思ったままを口にするから割と開けっぴろげに言えちゃうでしょ。だから、そこにも嘘がないんです。
©2010 TIFF

――主人公はとても我慢強い性格ですが、これはイスラエルの国民性ですか?

彼は僕の創造です。彼のすべてを逆にすると、典型的なイスラエル人になるんです(笑)。よく見かけるような人ではつまらない。ちょっと珍しかったり、変わった人のほうが描いてみたいと思いませんか?

――タイトルにあるパリがメタファーになっていますが、思い入れがあるのですか?

フランス文化は、僕にとってとても重要。ロシアはフランス語が公用語だったこともあり、子どものころはデュマやスタンダールをよく読んでいました。ロマンティックなことは必ずフランスに結びつくという感じで、14歳のとき初めてパリに行ったら、自分が読んだ小説の中に生きているような体験ができたんです。それ以来、何度も行っています。

――音楽や歌が主人公の気持ちとすごくリンクしているような印象を受けました。

何かのエネルギーを感じたときに、そのままスクリーンに持っていけるような音楽というものを心がけましたが、それほど深くは考えず心の赴くままに聴きたい曲を入れただけです(笑)。

――主人公の最後の決断には、もどかしさが残りました。

どこで上映しても、皆、同じことを言うんですよ(苦笑)。でも、皆をそういう気持ちにさせたということは、ある意味で自分はとてもいい脚本を書いたかもしれないですね。ただ、彼にはいろいろなことが起きるけれど、最もやらなくてはいけないことは自分を変えること。彼の行動をよく見ていると、最初のころはしていなかったことを、徐々にやれるようになっています。見ている側は物足りない、何とかしろと思うかもしれませんが、彼の中では確実に変化があるんですよ。

――映画監督を志したきっかけはなんですか?

父親が自分に夢を託したのだと思います。ユダヤ人だった父は、書くことが好きだったけれど、芸術家への道を閉ざされていました。僕には3歳くらいのころから、詩を書けとか、いろいろなことを勧めてくれたので一所懸命に文章を書いたり、8ミリで短編を撮っていました。13歳のときに移住してからは言葉の違いなどもあって、ただ学校に行って時が過ぎていた感じでしたが、22歳のとき書くことも映像も好きな自分にとって、言葉を必要としないメディアである映画に対してすごく興味が沸いたんです。そこで、すぐに映画学校に入学しました。

――次回作など、今後の予定は決まっていますか?

来年撮りたいと思っている作品があるんです。主人公はイスラエル人の青年で、旅行中に失跡した父親を探すうちにいろいろなかかわりのある人たちと出会い、それまで知らなかった父親の実像が浮かび上がり、青年自体の人生も変わっていくという話です。実は、ほかにもう2本企画が進んでいて、ひとつは口外してはいけないと言われている大きなプロジェクト。もう1本はイスラエルの村を舞台にした子どもたちの話で、この3本の脚本を共同で執筆しています。だから、この先6年くらいは忙しくできるのかなと思っています(笑)。

 プルドフスキー監督は初来日だが、「“テルアビブから35時間”かかるので、1週間の予定で滞在は4日。残りは飛行機にいた感じです」と苦笑いしていた。これに懲りず!? 次回作でも東京に戻ってきてほしい。

(聞き手:鈴木元)


『パリから5時間』




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