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2010.10.26
[インタビュー]
コンペティション『ブッダ・マウンテン』リー・ユー監督、シルヴィア・チャンさん、チェン・ボーリンさん インタビュー(10/26)

リー・ユー監督、シルヴィア・チャンさん、チェン・ボーリンさん

中国国内でも数々の賞を経験した36歳の女性監督リー・ユーが、台湾出身のベテラン女優シルヴィア・チャンを迎えた『ブッダ・マウンテン』。自らが共同で脚本を練り上げたその渾身作が<コンペティション部門>で上映された。シルヴィアが演じるのは、一人息子を事故で失い、生きる希望も人生の意味も見失った元京劇の歌手チャン先生。そんな彼女が、チェン・ボーリン演じる世をすねた若者ディン・ボーと2人の仲間と同居。そこから若者は苦い人生の意味を知り前進していくが、チャン先生はある選択をする。監督、シルヴィア・チャン、そしてチェン・ボーリンと彼の父を演じたプロデューサーでもあるファン・リーが参加した上映後のティーチ・インでも、チャン先生の<選択>に議論が巻き起こるなど、深い人間ドラマを浮き彫りにした内容は見応えあり。監督、シルヴィア、ボーリンに、それぞれの作品に対する思いを聞いた。
©2010 TIFF


――この物語を書いたきっかけは?

リー・ユー監督(以下 ユー): いちばん衝撃を受けたのは、四川大地震の後の話を聞いた時です。地震によってたくさんの人が亡くなったことも衝撃でしたが、それより、生き残った人々が自殺をしたということに大きな衝撃を受けたのです。フォンさんという人がいました。彼は、たくさんの人を助けて面倒を見てました。でも、彼の6歳の娘はまだ埋まったままだったのです。そして、彼は救援活動が一段落すると自殺をしたんです。その遺書には「悲しまないで欲しい。これは覚悟の自殺であり、私はやれることはすべてやった。おそらくみなさんには理解できないでしょうが、これは私にとって幸せな選択です」と。要するに、魂が幸せになる為の自殺だということですね。そして同時に、もうひとつの事実に衝撃を受けました。それは、コンピューターの会社で若い社員が次々に自殺をしてるというニュースです。ある人が自殺をすると、それを真似してまた自殺をする。精神が疲弊してるんですね。そういう若者の衝動と人生の意味を失った年配の人の幸せな選択。それは関連性があるのではと思いました。
©2010 TIFF

――キャスティングはどのように?

ユー: 脚本を描いている段階から、すでにチャン先生はシルヴィア・チャンしかいないと思ってました。彼女が演じてこそ、この映画が他の映画と違うものになる。何年か前にお会いして彼女の長いキャリアで培われた演技に対する情熱とワザは、チャン先生の思いを正確に伝えられると信じてました。チェン・ボーリンはシルヴィアからの推薦です。ディン・ボーを演じられる若い俳優を、中国国内はもとより香港や台湾でも探したけれどみつからなくて。そんな時に、シルヴィアがボーリンは性格も良いし、なにより清潔感がある。この清潔感こそディン・ボーに不可欠だといってたんです。

――重いテーマを担った難しい役どころを演じた感想は?

シルヴィア・チャン(以下 チャン):まず、演じる時よりも、この役を引き受けるかどうかを迷った時がいちばん苦しかった。私も子供がいるので子供を失った哀しみはわかるつもりですが、果たしてチャン先生の選んだ道に共感できるかどうか。でも、監督といろいろ話していくうちに、その選択はありかもしれないと思うようになり、やってみようという気になって。完成品を見た時は、私がいるのではなく、まさしくチャン先生がいると感じられて。私だけでなくボーリンも、仲間を演じたファン・ビンビンもフェイ・ロンも。まさにあそこで生きていて、一緒に生活をしていたんだと思えました。
©2010 TIFF


チェン・ボーリン(以下 ボーリン): 僕自身の家庭はディン・ボーの家庭とはまったく違うけれど、同じ環境で育った友人がいます。だから彼の感情も理解できるし、共感もできました。じつはこの東京国際映画祭で上映された時に、初めて完成品をスクリーンで観たんです。映っているのは僕だけど完全にディン・ボーになっているし。それを見ている僕までが、撮影当時のようにディン・ボーの気持ちになっていて。なんだか不思議な気分になりました(笑)。
©2010 TIFF


――3人の若者は、現代の悩める若者の象徴的存在だと感じましたが?

ユー: そうです。まさに今の中国に住む若者が直面している社会問題であり、彼らのさ迷える青春を描きました。いまは大学を出ても失業する人が多い。ディン・ボーは大学受験を拒否して自由を求めようとしているけれど、さりとて無為な生活しかできない。いまの中国の若者の多くがああいう状況に陥ってるんですよ。

チャン: 社会問題である若者3人と暮らしていくうちに、私が演じたチャン先生は心が癒されていきます。でも、彼女の悩みは3人のそれとは違い、もっと根深い。彼女は、ずっと人生における答えを見つけようとしてさ迷っていました。そして、3人との出会いがきっかけで答えを見つける。それは<解脱>です。たぶん、最後のシーンは観る人によっては受け取り方が違うとは思います。でも、希望を持って観てくだされば、いいなと思ってます。

――雄大にして美しい自然のロケーションが荘厳な雰囲気を醸し出し効果的ですが。

ユー: プロデューサーが四川省の出身で、しかも鉄道が走っている土地で育ったのであそこが見つかりました。それでもお寺のセットを置く山の位置とか、列車の走るカットとか、ロケーションを決めるのにはかなり時間がかかりました。

――貨物列車の上に若者3人が乗っているシーンが疾走感をあおり秀逸でしたが、乗ってるほうの気分は?

ボーリン: 面白くて気持ちよかったですよ。初めての体験でしたし。あれを俯瞰で撮るシーンがあって、スタッフがまったくいなくて3人だけで乗ってる。列車がどんどん走って行く時に本当にかどこか遠い世界へ行くんだという錯覚に陥りました。

――人生の深い悩みを描くこの作品を体験して、自分自身が変わったことは?

ボーリン: 何かをする時に、即、動くのではなく「これでいいのか?」「本当に大切なのは何か?」と考えるようになりました。それに監督を見ていて僕もなにかができると思い、いまはコメディの脚本を書いてます。以前は、脚本を書くとか監督をしたいなんてぜんぜん思わなかったのですが。

チャン: 若返りました(笑)。監督のエネルギーをたくさんもらって。だから近々、また監督をやってみようという気にもなってます。


<魂の救済>をテーマにした重厚な1作は、緑滴る自然をふんだんに映し出した映像が功を奏して登場人物たちの苦悩を浄化させていく。さらに、チェン・ボーリン&ファン・ビンビンという当代売れっ子の若手スターが清々しい雰囲気を醸し出し、後味は悪くない。この秀作の日本配給が現時点では決まっていないのが残念。早々に、日本公開が実現することを望むばかりだ。

(聞き手:金子裕子)


『ブッダ・マウンテン』
©Laurel Films Company Ltd.
→作品詳細





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