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2010.10.27
[インタビュー]
アジアの風『台北カフェ・ストーリー』シアオ・ヤーチュアン監督インタビュー(10/27)

シアオ・ヤーチュアン監督

いま台湾で最も人気のある女優グイ・ルンメイとモデル出身の新人リン・チェンシーが姉妹を演じる『台北カフェ・ストーリー』は、物々交換をテーマにした心温まる物語だ。人々は物を交換しているようで、実はそれぞれの心の中にある、かけがえのない価値を交換している。心と心の結び付きを描くオリジナル脚本のユニークさもさることながら、様々な映画技法を駆使するシアオ・ヤーチュアン監督の確かな演出手腕にも注目して、話を聞いてみた。
©2010 TIFF


――女優をこれほど美しく撮った作品は近年あまり見なかったと思うのですが?

彼女たちの代わりにお礼を言いたいと思います。もともと綺麗なのは言うまでもないことですが(笑)。

――カフェが完成した時のお姉さん役グイ・ルンメイが全身で喜びを表す場面や、妹役のリン・チェンシーが自転車に乗ってビラを配るいきいきとした様子など、とりわけ印象的です。2人の魅力を引き出すにあたり監督はどんなことを心がけたのですか?

まずリン・チェンシーは初めての映画出演でとても緊張していたので、どう演じたら監督を満足させられるかとか、そうした余計なことを考えないように、安心して自分らしさを出してほしいと伝えました。一方、グイ・ルンメイはいまや女優として成熟期を迎えていることもあって、自分が演じるドリスという人間の背景について様々な質問をぶつけてきます。だから私はそれに対して明確な答えを与え、彼女と2人で役を掘り下げていくことにしました。とくに彼女の実際の生活や経験の中に役立つものはないかを話し合いました。いわばリン・チェンシーは子供をあやすように、グイ・ルンメイは大人として接したわけです。

――グイ・ルンメイがはしゃいだり、むくれたり様々な表情をしてみせるのに対して、リン・チェンシーはクールで無表情なぶんだけ、時に見せる笑顔がとてもいいですね。清楚で庶民的な姉。キュートですれっからしの妹。ふだんは現実的な姉が実は夢見がちで、大雑把な妹の方がむしろ現実的であるというキャラクター設定のモデルとなる人物はいたのですか?

モデルといっていいか迷いますが、それらしい人物は2人いました。ひとりは私がまったく話したことのない人物ですが、上海にあるカフェの女性です。上海に行くたびに立ち寄るカフェで、おそらく30代のフランス人の方だと思います。こざっぱりしていてあまりお洒落な感じではないけれど、一所懸命ケーキを作ったりする、その仕事ぶりが見ていてとても美しいのです。ドリスのイメージの原型にはこの女性の姿がありました。もう一人はプロデューサー――今私の隣りに座っている仕事上のパートナーであるエイプリルさんです。彼女にはドリスのようにとても現実的な部分があり、「こっちに行ったら危ないよ」といった理性的判断に長けている一方で、ものすごくロマンチストの一面がある。だから実はこっそりグイ・ルンメイに、役作りには彼女を参考にすればいいと伝えておいたのです。あとで当人に「知らなかったでしょう?」と言うと、グイ・ルンメイに教えてもらったと話していましたが(笑)。でもひとりの人物に2つの側面があるというのは誰でもそうなので、この2人だけというわけではありません。

――カフェが映画の舞台になっていますが、ここでぜひお尋ねしたいのが前作『ミラー・イメージ』(2001)との関連です。この作品も質屋という限られた場所を中心に展開される物語でしたが、こうした場所の限定というのは、監督の好みなのでしょうか?

『ミラー・イメージ』の時はまったく予算がありませんでした。だから監修のホウ・シャオシェン監督から場所と役者は少なくするように言われ、質屋で3人しか出ない話にしたわけです(笑)。これは非常に効率的で、今回も予算的な部分を配慮してこうしたかたちにしたのです。

――映画は軽妙なテンポで展開する一方で、時に3分近いフィックスでの長回しにもチャレンジしてますね。またナレーションや字幕を挿入したり、イラストで2人の気持ちを代弁したり、オーバーラップやフェイドアウトを多用するなど、実にセンスあふれる作品に仕上がっています。リン・チェンシーがスチュワーデスに物語を語って聞かせる場面では、様々なやり方でカットを割り、繊細にオーバーラップを用いているのがとても印象的でしたがこうした技法上のアイデアは脚本の時点ですでに想定されるのでしょうか?

もともと私はカット割り台本というものを作ったことがなく、あれは撮影当日に思いついたのです。妹が思いつきの嘘八百の物語を語る場面なので、どうしたらその嘘っぱちの感覚を出せるかと考え撮影監督と相談して周囲の人がいるときといないときの2回彼女に話をさせ、それを編集時に交錯させて、いかにもあることないことを言っている感覚を出そうとしたわけです。

――同じ場面の反復というのも、本作ではユニークなアクセントになっています。母娘3人が横並びになって展開されるコミカルな場面や、物語の進展にあわせて一般の人々への街頭インタビューが映される場面などです。インタビュー場面を挿入することで、当初の意図を超えて、この作品に付け加わったことはありますか?

インタビューの箇所は脚本段階では「あとで質問」と書いて空白にしてありました。実際にやって映画に挿入した方がいいと思ったのは、この映画のテーマが「心理的価値」であり、人によって価値があるものはちがうということを表現したかったからです。映画のストーリー部分を撮り終えてから撮ったので、この場面が物語に新しい何かを付け加えたとは思いません。でもスタッフの中には物語の邪魔になるという意見もあって、この場面を入れるかどうかは最後まで迷いました。結果的に入れることにしたのは、私がとても気に入っていたからです。
©2010 TIFF

――物語の中盤に中 孝介が出演する場面があり、日本の唱歌「故郷」を披露します。この曲はどんな経緯で選んだのですか?

映画にふさわしい日本の昔の歌を3曲選んで中さんに聞いてもらい、何かいいものがあるか、なければ何か推薦してもらえないかと話したところ中さんが「故郷」がいいと言ってきたのです。

――カラーの花は、日本ではブライダル・ブーケとしてよく用いられるものです。これをグイ・ルンメイが大量に手に入れるところから物語は始まるので、最後にチャン・ハンが目の前に現れてハッピーエンドという展開もありうると思いましたが、ハッピーエンドながらも、「心理的価値」を象徴する陰影のある結末を選びましたね。この結末に監督はどんな想いを託されたのでしょう?

残念ながら、台湾にはブライダル・ブーケという習慣はありません。確かにグイ・ルンメイはチャン・ハンのことを好きそうなのに、ほったらかしにして旅立ってしまう。それでいいと思ったのです。誰かが自分のことを好きだからと言って、必ずしも自分の計画を変える必要はないわけですから。ラブレターを受け取った時点で、彼女は世界旅行に行くつもりでおり、それを取りやめにして居残ることはないという結末したわけです。ところが台湾ではみんなそこが謎で、なぜ行ってしまうのかと口々に言われました。もしかしたら撮影期間がギリギリで、最後まで撮っていられなくて、ああいう終わりにしたんじゃないかと(笑)。

(聞き手:赤塚成人)


『台北カフェ・ストーリー』
©BIT Production


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