150本を軽く超える今年の映画祭の上映作品の中でも、最もビックリする1本が『そのカエル、最凶につき』でしょう。現在のオーストラリアで実際に起きている現象を、監督はライフワークのように追い続けています。1930年代、オーストラリアの農地で害虫による被害が激しくなり、一計を案じた農民たちは害虫の天敵である外来種のカエルを102匹輸入します。
が、しかし。そのカエルがとんでもなく凶暴なカエルだったのです。害虫を全く食べてくれないどころか、カエル自体が害虫と化し、農地を荒らしていきます。このカエルたちは急激に繁殖し、オーストラリア全土に向けてその勢力を広げていったのです。
数十年をかけて、まるで西部開拓期のアメリカのように、カエルは西へ西へと移動しては増え続けています。その様子をテレビが「現在のカエル前線」といった具合に報道する様子が紹介されますが、ひたすら唖然とするばかりです。
しかも、そのカエルは人やペットにも害を及ぼすとんでもないヤツらで、裏庭にカエルを目撃した日にはとんでもないことになる!最凶カエルを執念深く追い続け、驚異(脅威)の映像を撮り続ける監督はまさにスゴイの一言。
カエルが苦手な人は決して見ないで下さい(笑)。しかし、心からビックリしたい人、今年はこの1本ですよ!
プログラミング・ディレクター 矢田部吉彦
そのカエル、最凶につき Cane Toads: The Conquest
この作品の見どころは、大きく分けて二つあります。一つは、日本の伝統芸能である能の舞台を、じっくりと鑑賞できることです。能の舞台を見たことがない人に特にお勧めしたいのですが、名人による芸を間近で鑑賞できることはとても貴重な機会であり、新しい刺激の扉が開くことは間違いありません。
二つめは、師匠から弟子へと芸が継承される様が見られることです。厳粛な稽古の風景を、一般の人が見られる機会はまず無いと言っていいでしょう。数百年の伝統を持つ芸能が、いかに受け継がれていくのか。我々観客も、思わず姿勢を正さずにいられません。
そして、もう一つ、この作品には極めて重要な点が含まれています。それは、ドキュメンタリー映画が持つ「記録する重要性」が、最大限に強調されているという点です。本作の重要な登場人物である観世流能楽師関根祥人氏は、能の世界を映像に収めようと田中千世子監督が製作を進行している最中に、突然帰らぬ人になってしまいました。父の芸を受け継ぎ、そしてその芸を息子に受け継ぐべき存在として登場する関根祥人氏。
その姿を映像で目撃し、心の目に焼き付けることで、我々も継承される立場の者となっていきます。そしてその時、映画は「記録」という役割を超えた存在になっていくのかもしれません。
能という伝統芸能と、映像という表現手段とが結びつくときのスリリングな刺激を、ぜひ味わって下さい。
能楽師 伝承 Successional Tradition of Noh
ヴィック・ムニーズ/ごみアートの奇跡 Waste Land
燃え上がる木の記憶 Memories of a Burning Tree
心の棘 Thorn in the Heart
夏の草原 Summer Pasture