イタリアの新人監督(同じ映画学校出身の男性二人による共同監督)によるハードなドラマです。ジャンルはヒューマンですが、青春映画でもあります。但し、非常に苦く厳しい青春映画。登場するのは、ムショ帰りの元売人、3人組のチンピラ、そしてバーでバイトをする一人の女子大生。ローマ郊外の住宅地を舞台に、彼らの日常が描かれていきます。淡々とした日常の中で、退屈をもてあますチンピラたち。その退屈がやがて不幸な展開への原動力と化していきます。普通の人間が、きっかけひとつで変化していく恐ろしさ。それは、我々の日常と地続きであるように見えるだけに、リアリティをもって迫ってきます。
そして、ポイントとなるのが、元売人の青年の視線です。彼は高台のベンチに座り、町の出来事の様子を一日中眺めて過ごします。まるで天使のような視線で。その「天使」がどのような行動に出るかが、映画の焦点になって行きます。
二人の監督は、音楽の使い方に工夫を凝らし、独特の撮影アングルを駆使し、この物語に荘厳な雰囲気を与えていきます。若さを存分に活かした大胆な演出で、暴力の不毛な連鎖というハードなテーマに果敢に取り組んだイタリアの新鋭チームをお見逃しなきよう!
プログラミング・ディレクター 矢田部吉彦
そして、地に平和を And Peace on Earth
今、世界の映画界で勢いがあると言われている国のひとつがトルコです。注目に値する若手がたくさん育ち、諸国の映画祭を賑わせています。
『ゼフィール』は、ベルマ・バシ監督の長編デビュー作ですが、彼女は06年のカンヌ映画に出品した短編が注目を浴び、斬新な映像センスで生と死を見つめるその作風が、スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンにも例えられたほどでした。
本作はその短編をベースにしています。自分から離れていく母親の気持ちを引き止めようとする少女の、繊細な心情が描かれる物語です。少女は田舎の祖父母の家を訪れているのですが、日々を過ごす山の中で生物の輪廻に接し、大自然から徐々に影響を受けていきます。もちろん、自然は時に残酷な面を露呈し、少女の心境にも変化を与えます。この展開がとてもユニークです。
しかし、ユニークといえば、映像の切り取り方こそがユニーク。まず、山の緑色が、とてもビビッドで、ちょっと人工的な印象を与えるほどの緑です。この色味がまず楽しい。そして、それぞれのショットにちょっとした工夫が常にあり、「え?こんなところにカメラ置く?」というような刺激が味わえます。新人ならではの勢いもあるでしょうが、確固たるスタイルを既に確立しているとも言えそうです。様々なタイプの若手監督を輩出するトルコ映画界、是非ともご自身の目で確認を!
ゼフィール Zephyr
レオニー Leonie
追伸 P.S
ビューティフル・ボーイ Beautiful Boy
あんたの家 Your Home