10歳のアハロン君は、いたずら仲間と一緒に美人ピアノ教師の家に忍び込んだり、脱出マジックごっこをしたりして、毎日を楽しんでいます。しかし、幸せに暮らしていた家族には、最近不穏な動きが…。というのも父親と美人ピアノ教師との仲が怪しく、母親はそのせいで機嫌がすごく悪いし、姉は思春期で複雑な時期だし、祖母はちょっとボケ始めてしまっているし、いろいろと大変なことになってきました。
このように、本作は、一見「普通な」少年アハロン君の成長物語です。しかし、前半こそアハロン君を取り巻く状況を描いていきますが、後半から段々と映画の様子が変わっていくのです。その背景を少し知っておく必要があるのですが、この映画が描く時代は1963〜65年のイスラエルです。イスラエルは1967年から第三次中東戦争に突入することになります。ですので、映画が描くのは、束の間の平和が訪れていたイスラエルなのです。
時代の変化を敏感に感じ取っていくためなのか、アハロン君の体にある異変が起きます。その異変をどう解釈するか。少年の成長物語という枠組みを持ちながら、映画はとても深いテーマに突入していきます。この刺激を是非味わってもらいたいのです。
原作者のデヴィッド・グロスマンは、イスラエルの有名な作家で、平和運動家としても知られています。彼がアハロン君に託した平和への思いを想像すると、胸の底からじわじわと感動が沸いてくる気がします。そして、映画化を実現したニル・ベルグマン監督は、2002年(第15回)の東京国際映画祭でグランプリを受賞している監督です。ご期待下さい!
プログラミング・ディレクター 矢田部吉彦
僕の心の奥の文法 Intimate Grammar
世界で最も有名な登山家の一人、ラインホルト・メスナーが1970年に挑戦したナンガ・パルバット登頂をドラマ化した作品が『断崖のふたり』です。とにかくこのメスナーという人はとんでもなく偉大な登山家で、このヒマラヤ山脈に連なるナンガ・パルバット登頂を皮切りに、17年の歳月をかけて、1986年には人類史上初となる8000メートル峰全14座完全登頂という登山史における大金字塔を打ち立てています。素人にはよくわからないですが、なんだか凄そうというのは伝わりますよね?
でも、実際は複雑な人物で、自己顕示欲が旺盛で登山に対しても偏った見解を持っており、なかなかやっかいな人でもあるらしいのです。無謀とみるか、それとも勇気とみるか、この作品ではメスナーの登山に対する独特な姿勢もたっぷり描かれます。しかし、なんといっても見所は、実際の登山のシーンでしょう。ナンガ・パルバット登頂は困難を極め、臨場感溢れる映像(まったく、どうやって撮影したのだ!?)がその様子を見事に再現していきます。
メスナーは、自然との闘いに勝つのか、負けるのか。例え勝ったとしても、どんな代償を払うことになるのか。迫真の描写が満載で、まさに息が止まり手に汗握る『断崖のふたり』をご体験あれ!
断崖のふたり Nanga Parbat
ブライトン・ロック Brighton Rock
ハイソ Hi-So
マイ・オンリー・サンシャイン My Only Sunshine
赤とんぼ Red Dragonflies